気分解消行動としての過食〜体験の回避

adcb2744c36dfabe6d34260c110ebb58_s過食症やむちゃ食い障害などの摂食障害は、外見の美しさや体重に関する社会文化的な俗説にとらわれ、自分が理想と感じる容姿の獲得を求めて無益な体重コントロールにのめり込むことで発症することが明らかにされています。

 

過食症やむちゃ食い障害を発症する人だけでなく、排出性障害(自己誘発嘔吐から発症する人)も、食欲の刺激に対し無感覚を示すなど内受容感覚への気づきの困難を抱えており、内的な不快感を調整するために食行動や体重コントロールを利用することもわかってきました。

しかし食行動障害または摂食障害が発症してからの年月や、問題のある食行動の頻度は変わらないのに、治りやすい人と治りにくい人の差は何か?についての研究はほどんどないのです。

長いこと摂食障害の治療に携わっていると、食行動に対する患者さんの態度の違いの段階が治療奏効性の違いとして表れていることに気がつきました。

 

食行動に対する態度の違いには

(1)内受容感覚への気づきの困難から気分解消行動を使う段階
(2)食行動障害が嗜癖になり防衛構造としての自己を形成する段階
(3)生活が狭窄し人生が混乱する段階

上記の3つの段階があるようです。

内受容感覚への気づきが困難な人は、自分の内面で起きる思考や感情を認識することや、空腹や満腹など身体感覚を知覚することが苦手です。

「内受容感覚への気づきの困難から気分解消行動を使う段階」では、まず苦痛を管理、コントロールしようとする気分解消行動が役に立っていないことをしっかりと認識することから始めます。

食べ物には、気持ちを静め、落ち着ける効果があります。
実際に、むちゃ食い障害の人の報告によると、過食の引き金としていちばん多いのは、ネガティブな気持ちです。
今まで、過食は、あなたが自分を大切にするためにとってきた方法だったのです。
残念ながら、この方法にはあまり効果はありませんでしたし、それどころか、逆効果でした。
あなたは自分をコントロールできないと感じ、やる気を失ってきたのですから。
ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社

むちゃ食いをした日は気分がよりネガティブで、先行するネガティブな感情は、不適応的な摂食行動と関連することはよく知られていますよね。

一方で、むちゃ食い障害の人も健康な人もライフイベントやストレッサーの数には違いがなかったものの、むちゃ食いをする人はひとつひとつの出来事をストレスフルと感じやすいことも報告されています。

 

一般に「ストレス」として知られているものは、「ストレッサー(外的事象)」と「ストレス反応」の総和です。「ストレッサー」そのものをストレスと認識し、「ストレスは良くない!」と考えている人は多いですよね。

「ストレス」と似たものとして「アレルギー」を考えてみましょう。
アレルギー素因をもつ人に「アレルギー反応」が起きたらそれを引き起こした物質を「アレルゲン」と呼びます。アレルギー反応が起きなければ、その物質はアレルゲンではないのです。
つまりアレルゲンやストレッサーそのものが問題なのではなく、「反応する側」の内的体験の仕方(反応)が問題なのです。

 

前頭前野は理性で行動を制御しようとします(認知的制御)。しかし、前頭前野はストレス反応によって制御不能になりやすく、頭でわかっていても、慣れ親しんだ習慣に戻ってしまいやすくなります。

体重に関する思考、食衝動、罪悪感などの内的体験は、どんなに苦痛で、望ましくないものであっても、それ自体に問題があるわけではありません。問題は、不快な内的体験に対して、長期的な目標を失ってまで短期的な苦痛軽減を求めてしまうことです。

 

「出来事に対してネガティブな気持ちになる」→「食べる」→「一時的に気分が楽になった気がする」という「きっかけ→行動→報酬」を繰り返すことで行動は強化されるだけでなく、摂食関連の刺激に対して無感覚や無反応になり、一時的に気分が楽になるどころか、むちゃ食いの後の方がより気分はネガティブになることも報告されています。

さらに「目の前に食べ物があるから」「退屈だから」「買ってしまった義務感」など、食欲とは無関係な感情体験によって食行動がコントロールされるようになり(文脈依存の記憶)、「食行動障害が嗜癖になり防衛構造としての自己を形成する段階」に移行してしまうのですよ。

院長