気分解消行動としての摂食障害行動

新年度の怒濤のような変化から1ヶ月経ち、三田こころの健康クリニック新宿の窓から見える新宿御苑の木々も、新緑が鮮やかです。

摂食障害の人にとっては3月から4月の送別会、歓迎会、お花見といった会食が重なった時期が過ぎて、新しい環境にも少しずつ慣れた頃だと思います。

 

しかし、ゴールデンウィークのように「何もすることがないとき」や「楽しめなくて退屈しているとき」には、「気分が沈んでいる」と感じやすく、心の空虚感を食べもので埋め合わせしようとしてしまいます。

また身体が代謝を落とし始めるこの時期は、夏に向けてダイエットしなくちゃ!と摂食障害のスイッチが入りやすい時期でもありますよね。

 

摂食障害は、一般に信じられているようにストレスをきっかけに発症するのではなく、なにかしらの空虚感、不全感が引き金になることが多く、その根底に「満たされない感覚」が横たわっていますよね。

したがって、成長するにつれて、十分に愛されてないとか、受け入れられていないと感じるようなことがあると、その経験と食べることに大きな関連性が生まれても不思議ではないのです。感情的に満ち足りていたこの経験を思い出すために、自分に食べ物を与えることで、それを再現しようとするかもしれません。しかし、私たちが本当に求めているのは愛情であるということに気がつかないのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

寂しさや悲しみ、あるいは感じたくない感情から逃れるために、あるいは満たされない愛情を求めるために、食べるという行動のスイッチが入ってしまいやすくなりますよね。

こうなると、心や魂が飢えを感じたときに、それが身体からのシグナルだと勘違いしてしまいます。

そして次第に、「気分解消のための過食」から「心や魂の飢えとしての過食」に移行し、「過食が嗜癖(クセ)になった」と感じてしまうのです。

 

戸惑いや葛藤にうまく対処できないとき、自分を飢えさせれば肉体的な感覚を感じなくなり、自分の気持ちに何がおこっているのかを感じなくてすむことに気がつくかもしれません。

もしくは、大量の食べ物を一気食いしたり、嫌な感情を抱くたびに少量を休み無く食べ続けたりすれば感情を押し込めることができる、と感じるかもしれません。

お腹いっぱいになりすぎると呼吸がしにくくなります。呼吸ができないということは、感情を経験できないということです。

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「少量を休み無く食べ続け」る食行動は、「ダラダラ食い(grazing)」や「食べ過ぎ(overeating)」と呼ばれ、厳密には過食の定義を満たさないのですが、食べ過ぎた後には絶食や拒食など体重に影響を与える代償行動があることが多いので、「過食性障害(むちゃ食い症)」とみなされることがほとんどです。

 

8つの秘訣』にもあるように、食べものとの関係と、どのように人間関係を築くかは、そちらもその人の特性と「人となり」に基づいているので、自然に似てきます。

常日頃から孤独感や空虚感を抱いている人にとっては、食べ物が誠実な仲間のように感じられることがあります。そのため、人生で感じている空虚さを埋めるために食べて満腹感を味わおうとしたり、孤独を感じなくていいように自分を飢餓状態に追い込んだりするのです。

そうすれば親しい人と出会ったり、いつかは自分のことを見捨てるかもしれない他者と近づきすぎたりするリスクを避けられる、というわけです。 

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食べものや食べることを、対処できない現実から目をそらすための手段として使う、あるいは感情調節のとして使うことを繰り返すようになると、しだいに食べものや食べることだけが、唯一の対処法と思い込むようになります。

 

「気分解消行動としての過食」に対して、三田こころの健康クリニック新宿で行っている対人関係療法による摂食障害の治療では、「行動の仕方を改善する(感情・考え・情動のコントロールへの気づき)」として「衝動の波に乗」りながら、出来事と気持ちの整理をしていきますよね。

 

過食を始めたり、食べることをコントロールできないと感じたりしたときは、いったんストップして自問することです。

「何が起こっているのだろう。このきっかけになった対人関係上の問題は何だろう。それによって自分はどんな気持ちになっているのだろう。この状況を何とかするためには、どうしたらよいのだろう。」

はじめは難しいかもしれません。

動揺する状況を心にとめるようにし、そのときに起こっているものや気持ちに注目してみてください。そのときに起こっているものに、です。
これがうまくできるようになると、自分の悩みを隠すために食べ物を利用しなくてすむようになってくるでしょう。

ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社

8つの秘訣』のP.122にも「衝動の波に乗る」対処法が書いてありますよね。

 

「衝動の波に乗る」練習は、過食衝動のスイッチが入ったときに、あわてて取り組もうとしてもうまくいきません。例えて言うなら、教習所で運転を練習することなくいきなり路上で運転しようとしても、うまくいかなかったり事故を起こしたりするようなものです。

過食症やむちゃ食い症などの摂食障害からの回復を目指している方は、「衝動の波に乗る」をしっかりと身につけるために、自分の心をふり返る習慣をつけておくことが必要です。

 

三田こころの健康クリニック新宿の対人関係療法による過食症・むちゃ食い症の治療では、普段から自分の心と向き合い、「何を考え、どんな気持ちになって、何を感じているのか」について慣れ親しんでおく「自分との関係を改善する(心の状態の変化についての気づき)」で、「健康な部分と摂食障害の部分の対話」を十分に練習してもらってから、「行動の仕方を改善する(感情・考え・情動のコントロールへの気づき)」に取り組んでもらっています。

 

この取り組み方は「気分解消のための過食」の治療だけでなく、多くの過食症の人が感じているけれども、対人関係療法で対処できなかった「心や魂の飢えとしての過食(嗜癖(クセ)になった過食)」を治療していく最初のステップになりますから、しっかりと練習してくださいね。

 

院長