摂食障害・過食症と衝動性・嗜癖との関係

2013年に改訂されたDSM-5の【摂食障害(哺育と摂食の障害)】の項に

これらの疾患は、それぞれの疾患が経過、転帰、必要とされる治療の点で互いに異なる。
一方それぞれの疾患の摂食に関係する症状は、物質関連障害の患者にみられる「渇望」や「強迫的な振る舞い」のような症状と似通っている。
これらの疾患において、このような類似する症状がみられるのは、自己コントロールの調整や報酬に関する共通した神経回路の問題を抱えている可能性がある。
しかし、現在のところ、これらの疾患の間で共通する要因と疾患固有の要因がそれぞれどのようなものかはわかっていない。

とあります。

つまり、摂食障害は「渇望」を基盤とする衝動性と強迫性という自己コントロールの問題の可能性があるということですよね。

 

以前より、摂食障害と強迫性あるいは衝動性の関係は、摂食障害と強迫性障害や強迫性パーソナリティ障害の併存自傷行為や万引きなどの摂食行動異常以外の衝動行為として専門家の間では知られていました。

物質関連障害の患者にみられる「渇望」は、DSM-5では「嗜癖性障害」とまとめられました。
そもそも「嗜癖(アディクション)」とは、「依存」を含む強迫的で自己破壊的な衝動的な行動であり、ある習慣が悪い結果を生じさせるにもかかわらずやめられない現象、つまり「非合理な耽溺」という意味です。

この「嗜癖(アディクション)」には、本来、自己のコントロール下にあったはずの習慣行動ですが、次第に自己のコントロール不能な状態に至ったものであり、

物質嗜癖(薬物、アルコール、ニコチンなど)
プロセス嗜癖(性行動、買い物、過食、スマホやゲームなど)
関係嗜癖(共依存、支配的世話焼きなど)

に分けられます。

 

対人関係療法による摂食障害の治療6〜過食症の周辺(依存性)』で触れたように「嗜癖(アディクション)」は

(1) 非適応的・非建設的な行動を行わずにはおられない抑えがたい衝動(渇望:craving)
(2) その行動を開始し終了するまで、自らの衝動をコントロールできない
(3) 非適応的・非建設的な行動に代わる適応的・建設的な楽しみを無視し、該当行動からの回復に時間がかかる
(4) 明らかに有害な結果が生じているにもかかわらず、非適応的・非建設的な行動を続ける

上記が嗜癖行動の診断基準になりますが、このような嗜癖行動の根底には、

(1) 自尊心(自己評価)の低下
(2) 行動制御のくりかえしの失敗(コントロール不能)
(3) 重大な否定的結果にもかかわらずの反復(内的苦しみからの一時的な開放感)
(4) 自発性・合理性能力の低下あるいは欠如

などがあり、これらが嗜癖行動の原動力になっているようです。

 

対人関係療法による摂食障害の治療7〜多衝動性過食症』や『過食症と衝動性』で触れたように、嗜癖行動は、ある行動を抑えることができたとしても、他の行動に移行したり(シンドローム・シフト)、複数の異なる問題行動を抱えていたりすることが多いことが知られています。

嗜癖行動の原動力である「渇望(craving)」は「気分不耐」から生じ、「内的苦しみからの一時的な開放感」や「自発性・合理性能力の低下」を伴うために、『対人関係療法でのセルフモニタリング』で触れたように、過食症に対する認知行動療法で一般に行われる食事日記や過食日誌などの自己モニタリングが、逆に、過食の悪化につながることもよくあることなのです。

 

そのため、この疾患にはこの治療法という機械的な対応では、改善がみられるどころか逆に悪化することも頻繁に起きています。
では、衝動性や嗜癖という要素を持つ過食症にはどのような対応が必要なのかを考えてみましょう。

院長