摂食障害を維持している対人関係パターンを変えていく

素敵な物語』に「自分自身との関係と、他人との関係のバランスを保てるようになる必要があるのです」とあるように、摂食障害から回復するためには、「自分自身との関係(自己志向)」と「他者との関係(協調性)」の両方をバランス良く高めていくことが必要不可欠で、これが対人関係療法による治療の中心になります。

 

「他人との関係から離れて時間をとり、自分の考えや気持ちと静かに時間を過ごせるようになると、心が必要としている糧を得られるようになります。また、自分の感情、価値観、そしてリズムを見つけることができます」

最初のうちは他者との関係やコミュニケーションに取り組む前に、自分自身の心の中をふり返る練習が必要です。

 

ひとつ理解しておいていただきたいのは、必ずしもその行動が起こっている最中に自己主張しなくてもよいということです。実際、自己主張の仕方を学んでいる間は、その場ですぐに考えるのはほぼ不可能です。
それでいいのです。
この公式を過去形で使っても、全く問題ありません。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

対人関係から距離をとるのは「再演(エナクトメント)」という機能しない「対人関係パターン」をいったんストップするためなのです。

機能しない「対人関係パターン」からいったん距離をおき、「衝動の波に乗る」あるいは「一時停止ボタンを押す」こと、ジョンストン先生がおっしゃる「自己主張の基本となる公式」を練習する必要があるということですね。

 

三田こころの健康クリニック新宿で教えている『ローゼンバーグの非暴力コミュニケーション(「私は何を観察しているのだろうか?」「私は何を感じているのだろうか?」「私は今何を必要としているのだろうか?」「私自身あるいは他者に対する要求は何だろうか?」)を使って、自己内対話をしてみるということです。

 

乱れた食行動で苦しむ人たちは、よく魔法のような解決策や、あっという間の解決策を夢見ています。
現実には何かがすぐに解決されることはほとんどありませんが、この文(あなたが……すると、私は……と感じます。なぜなら……だから)を一貫して使い続けられるようになると、これは本当に魔法のような働きをします。
自己主張の練習をしている間は、この公式をカードに書いて持ち運んだり、電話の横に置いておくとよいでしょう。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

「魔法のような、あっという間の解決策」とは、過食症やむちゃ食い症の人に特徴的な「状況判断することなくすぐに行動に移してしまう(性急自動衝動性)」や「少ない報酬でも少しでも早く得ようとする(衝動過敏性)」という慣れ親しんだ行動パターンのことのようですよね。

 

摂食障害の人は「自分の気持ちをよくふり返る」など、地道にコツコツ続けていく練習が苦手に感じられると思います。

さらに摂食障害の人は『女性らしさ〜直観力を取り戻す』や『摂食障害と夢〜心の中を見わたす』で解説したアレキシサイミアのため、自分の気持ちをふり返ろうとしても「よくわからない」と感じることも多いのです。

そのため、「手応えが感じられない・よくわからない」「取り組むことに飽きてくる」「やりたくない言い訳をする(今日くらいはいいか)「取り組むことを避ける」「自己評価(自尊心)が下がる」「やらなかった言い訳をする(明日からやればいいか)「ますます取り組まなくなる(避ける)」「自己評価(自尊心)がさらに下がる」……という「体験の回避」の悪循環が生じてきますよね。

 

皆さんが興味をお持ちの「自尊心(自己評価)」は、言い訳によって生じた「体験の回避」によって低くなっているのです。

ですから『自分の心に正直になり摂食障害から回復する』で説明したように、言い訳をすることなく「心の思いを言葉にすることによって積極的に心を構成していく、つまり主体性を培っていく」ことを練習する必要があるのです。

 

しかし、他のスキル同様、これも修得するまでには練習が必要ですし、ちょっとぎこちなく感じる時期も乗り越える意欲が必要です。
これは子どもの頃、自転車に乗るのを練習したときと同じような体験です。ペダルをこいで、バランスを取って、ハンドルを安定させて、さらに進行方向を見るというのを一度に行うのがどれだけ大変だったか覚えていますか?
そのときに感じていたのと似たぎこちなさを今回も感じるでしょう。しかし練習を重ねることで、いずれ、自転車に乗るのと同じように、自己主張という新しいコミュニケーション方法が自然と身に付いてくるでしょう。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

「自分の心の中をふり返り言葉にする練習」に取り組むときには、いったん、他人との関係から距離をとる必要があります。

蛇足ですが、最近の研究では孤立状態におかれることによって、愛着ホルモンと言われる「オキシトシン」が増えることが知られています。「オキシトシン」は、他者から距離を取ることによるネガティブな影響から個体を保護しているようだと考えられているのです。

自分の内なる声を見つけるためには、自分と向き合う時間と自分を慈しむことの大切さに気づく必要がある」のは、いったん対人関係から距離をおき、オキシトシンの増加によって自分自身の中に安心基地を培い、インナーチャイルドとインナーマザーを癒すプロセスでもあるからなのです。

 

そしてもう一つ、『摂食障害の対人関係療法』で示したように、対人関係療法の治療効果は「変化の準備段階」によって差が出ることが示されています。

「体験の回避」という悪循環(低い自己評価(自尊心))から抜け出す最初の一歩は、「摂食障害から回復して自分らしく人生を生きたい」という「価値や目的」を明確にすることが大切な取り組みになることを、いつも心に留めておいてくださいね。

 

院長