摂食障害の背景にある自分と他者へのネグレクト

「乱れた食行動(食行動障害および摂食障害)」と「不安定な愛着」そして「メンタライジング機能不全」は、〔情緒的苦痛を一人で調整しようとする努力〕という点で密接な関連がありそうです。

拒食、むちゃ食い(過食)、ダラダラ食い、大食、排出行動(自己誘発嘔吐、下剤乱用など)などの「乱れた食行動」は、情動的苦痛に対処するための非メンタライジング的方法であり、愛着関係の代理となりうるものです。

「メンタライジング機能不全」とは、精神状態に注意を向けることの失敗を含むだけでなく、必要とされている想像活動を行う上での不本意さや無力さをも含み、メンタライジングできないこと、あるいは歪んだ形でのメンタライジングのことです。

「乱れた食行動」が愛着関係の代理となりうることについて、物質乱用(アディクション)の説明を読んでみましょう。

簡単に言うと、先に注目したように、物質乱用は情動的苦痛を調整するという点では安定した愛着の代理を提供してくれるのです。愛着と嗜癖物質は、同じ脳回路を活性化させます。このようなわけで、両者は、快感と安堵感を与えるという点では重なりあっているのです。

もちろん、愛着関係の代理物を求めることは、嗜癖状態の人をそのような関係から引き離しますが、それだけにはとどまりません。
それは、パートナーに対して拒否を伝えること、つまり嗜癖物質がもう一人の恋人のようになることですから、愛着関係をさらに損なうことになります。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

「乱れた食行動」は依存性物質の関与がない「嗜癖行動」ですが、愛着の安定性をさらに損なうような慢性的な対人葛藤をもたらします。そして、ネガティブな情動の連鎖(内的葛藤(例えば、罪悪感や恥の意識)の激化)を引き起こすだけでなく、ストレスに満ちたライフスタイルを助長し、ストレスに満ちたライフイベントが生じる可能性を高めてしまいます。

 

「乱れた食行動」である過食(むちゃ食い)や過食嘔吐(食べ吐き)、あるいは排出行為(吐き戻し)が、習慣になった、クセになったと感じていらっしゃる方も多いかも知れません。
習慣行動とクセ(嗜癖行動)は、自己矛盾(両価性)の有無によって区別されます。

食べ吐きを「止めたい」でも「続けたい」、過食すると「ストレスが減る」でも「ストレスが溜まる」など、複数のカテゴリーで並立的に表現される自己矛盾を伴う行動を「嗜癖行動」と呼びます。

嗜癖行動(行動依存)は『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』でも説明されていたように、生きづらさを緩和するための孤独な作業なのです。

 

1つは、人を依存症にするのは「快感」ではなく、「苦痛の緩和」であること、そしてもう1つは、物質依存症者はそれぞれが抱えている「生きづらさ」を解決するのに役立つ物質を選択している——つまり、個人の素因と物質との関係性、あるいはマッチングの問題——ということである。

(中略)

ちなみに、Khantzian(カンツィアン)らによれば、こうした、「別の苦痛」を用いた苦痛の緩和は、外傷体験を持つ物質依存者で認められることが多いという。

外傷記憶はしばしば生活史の文脈から切り離されて封印され、「実際にあった出来事」として人生の意味づけもなされていない。しかし、何かのきっかけで侵入的回想が生じると、本人はコントロールできない、そして説明することもできない感情的苦痛に圧倒され、突発的な自殺衝動や暴力の爆発といった破壊的行動への衝動が高まってしまう。

このような状況において、物質という「自分でコントロールでき、自分で説明することのできる苦痛」は、侵入的回想から意識をそらし、一次的に破壊衝動を回避するのに役立つ。

この仮説は、過食・嘔吐や反復性自傷といった、一見、自己破壊的に見える嗜癖行動を理解するのに役立つ。

松本「自己治癒としてのアディクション」in 『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

外傷体験(トラウマ体験)、とくに、アタッチメント関係や対人関係で生じたものがその後の影響が大きいことが知られています。
安定したアタッチメント関係を形成する能力に悪影響を与える「愛着トラウマ」は、情動的苦痛を引き起こすと同時に、苦痛を調整する能力の形成を妨げてしまうのです。

「乱れた食行動」の背景にあるさまざまなトラウマ体験のなかでも「ネグレクト——心理的波長合わせの欠如——」が「愛着トラウマ」の中心的なものであるようです。

愛着トラウマは、摂食障害の形成に寄与する幅広い要因の中でも、とくに目を引きます。こうして、摂食障害は、幼少期におけるネグレクトに加えて、性的・身体的・心理的な虐待の既往と関連づけられてきました。

なかでも情緒的虐待の有害な効果は注目に値しますが、それは、情緒的虐待がメンタライジングの欠如を暗示しているからです。

さらに、摂食障害は、虐待の既往を持つ女性が愛着とソーシャルサポートの問題を抱えているときに形成されやすいのです。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

『「続ければ続けるほど孤立を生む悲しい祝祭」である過食(磯野『なぜふつうに食べられないのか』春秋社)』という〔情緒的苦痛を一人で調整しようとする努力〕に頼らざるを得ないのは、「乱れた食行動」がアタッチメント関係の代理になっているからのようです。

つまり、「乱れた食行動に悩む女性たち」の中には「愛着トラウマ」があることも多く、〔対人恐怖的回避型〕あるいは〔遠ざかり境界性自己障害〕というネグレクト的な対人関係スタイルを取り、安心して他者(ひと)に依存することができない、他者(ひと)を信用することができないというソーシャルサポートの問題が潜んでいるようです。

 

ネグレクト的な対人関係スタイルは、他者(ひと)の精神状態を理解するメンタライジングの不全として現れるだけでなく、自分自身の心の状態(考え・気持ち・身体感覚)のネグレクト(≒アレキシサイミアやアレキシソミア)としても現れていて、これらが「食行動障害および摂食障害」を「苦痛否認の病」という位置づけにしているようですね。

 

院長