摂食障害の経過と予後

フェアバーンらは、過食症に対する対人関係療法での治療直後の寛解率が30~40%、治療終結6年後の寛解率が70%と報告しています。

 

ある論文で、摂食障害を比較的診ていらっしゃる一般精神科クリニックに、12年間に受診された摂食障害の患者さん173人のうち、症状がほぼ消失し、社会生活ができている改善例は2.8%(5人)、症状は残存しているけれども、社会参加ができた軽快例は5.2%(9人)、不変は88.4%、悪化は3.5%、死亡は1.1%であり、64%は3回以内で通院を中断した、と報告されていました。

 

三田こころの健康クリニックで以前、集計した20回の対人関係療法の治療終結時(約6ヶ月)の改善率(対人関係療法による摂食障害の治療4~治療の実際』参照)と比べても、フェアバーンの言う過食症の6年後の寛解率70%と比較しても、一般の精神科外来(再診5〜15分程度)に2週間に一度通院して、12年での改善率は約3%未満は、かなり衝撃的な数字です。

 

さらに一般精神科外来通院でかかる医療費の6年分が、1回50〜60分の対人関係療法の20回分(約6ヶ月)と同じなのです。
一般外来の6年x2倍の12年と、対人関係療法の6ヶ月の違いが、2.8%と70%という改善率の差になるわけです。

 

上記の報告をされたドクターは

従来より精神科治療として実践されてきた支持的精神療法を症例に合わせて丹念に粘り強く行い、その人らしい自立した生活機能の獲得を達成することが重要と考える。
(中略)
特別な治療環境や治療技法によらずとも普通の支持的精神療法により外来診療所でも十分可能となる場合があると考えられる。

と考察されていたことに驚きました。

 

上記のように「特別な治療環境や治療技法によらず」「普通の支持的精神療法」である助言等の働きかけだけの場合は、12年で摂食障害の約3%未満しか改善がみられず、88.4%の患者さんは、初診時とほとんど変わらないということは、「今後の人生(年月)が、病気のために損なわれないようにする」という治療の大前提とは、大きく隔たるように思えるのです。

 

さらに気になるのは64%もの患者さんが、短期間で通院を止めているということです。
摂食障害:診る読むクリニック—DVDとテキストで学ぶ』の書評で、なにわ生野病院の生野照子先生が

摂食障害では、治療を開始する前に第一の障壁が立ちはだかる。
受診を拒む人が極めて多いことである。
早期治療ができればずいぶん経過がよいのだが、多くが拒食から過食に反転して受診するので、心身ともに症状が複雑化している。
(中略)
過食になると自己有能感が低下し自棄的行為が増え、それを軽減するために過食を繰り返し、病気が遷延する。
『心身医学』Vol.54 No.12, 2014

と書いておられました。

思い切って受診してみたものの、わかってもらえないなどの不安のため、治療関係ができる前に通院を止めてしまい、過食の増悪につながったのではないか、と想像するとやるせない気持ちになってしまいます。

 

穿った見方をすると、一般の精神科外来では、摂食障害の改善率が3%との数字は喝采に値するので、
報告にできたのかもしれません。
そういえば、学会でのポスター発表をみていると、摂食障害の改善例の1〜数例報告も多いですから、摂食障害から回復するということは希有なことなのでしょうね。

 

水島先生も『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』の中で

もちろん、中には、治療をしないで自然に治る人もいます。
就職や結婚などの生活上の変化が偶然プラスに働き、うまく治ることもあります。
でも、決して多い数ではありませんし、自然に治ることを期待していたら、それこそ取り返しがつかないことになりかねません。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

と書かれていますよね。

 

三田こころの健康クリニックは、摂食障害や気分変調性障害の対人関係療法を専門としていて、いろんな医療機関で治らなかった患者さんたちが受診されますから、市中のクリニックや病院の一般的な精神科外来に比べ「治療準備性」が高い患者さんが多いという差はあるものの、逆に、一般に難治例・遷延例を対象にしているので、そういう意味で、こじれた患者さんの改善率として考えると、「従来より精神科治療として実践されてきた支持的精神療法」と摂食障害(「過食症」や「むちゃ食い障害」)にエビデンスを有する対人関係療法との効果の差は歴然としていますよね。

 

専門的な対人関係療法によって短期間の治療で効果を上げられるだけでなく、その効果は、治療終結後にも持続し改善し続けるということが知られていますから、摂食障害はもう治らないとあきらめるのではなく、思い切って、専門の治療機関に相談してみて下さいね。

院長