摂食障害の精緻な診断は治療効果に結びつく

摂食障害でいう「過食/むちゃ食い」は、「binge eating(bingeはどんちゃん騒ぎの意)」で、短時間(2時間以内)に普通の人が食べる以上の大量の食物を食べつくす状態であり、さらに早食いであることが特徴です。
このようなbingeの状態は、TV番組の大食い選手権をイメージしていただくと近いようです。

一方、一般に知られている「大食/ドカ食い」は、食べる量は多いものの(over eating:食べすぎ)、時間に制限がなく、満漢全席がそれに当たるようです。

 

摂食障害では食行動異常の背景に心理・精神状態が密接に関係していますから、一見、同じような食行動異常にみえても、背景まで考えるとかなり複雑になります。

摂食障害とくに過食症でよく知られている「ストレスを麻痺させるための過食」にも、嫌なことがあったときの出来事と関連した過食や、解離した状態で過食が起きる場合もありますし、気分不耐などで「心が動いたことによる過食(嬉しくても起きる)」や、習慣および衝動の障害としか呼べない「衝動過食」、寂しさ/虚しさを麻痺させるための「ダラダラ食い」や「ながら食い」などのように大食であることもあるのです。

さらに、飢餓過食もアレキシソミア(失体感症)で空腹感を感じない過食ともとらえられますし、飢餓過食でも解離に伴って起きることもあります。

これらに加えて、過食の範疇に入らない「主観的な過食や大食」もありますから、摂食障害の診断面接では必ず、何をどのくらい、どれくらいの時間で食べるのか、途中で自分では止められない感じを伴うのかどうかを初診の時に必ずお聞きしていますよね。

 

また自己誘発嘔吐も摂食障害の中核病理である「やせ願望(自己評価が体重や体型の影響を強く受けている状態)」や、「肥満恐怖(体重や体型そのコントロールへの過剰なこだわり)」に伴う代償行為としての自己誘発嘔吐の他に、「排出障害」や「身体表現性障害」などでみられる非代償性の自己誘発嘔吐もありますから、摂食障害を専門に診ていないと誤診してしまうのです。

 

過食だけでもこれだけのバリエーションがあり、「やせ願望」や「肥満恐怖」の程度もさまざまで、さらに患者さんごとに感情認知困難(アレキシサイミア)や身体感覚への気づき低下(アレキシソミア)、あるいは気分不耐(感情への接触回避)など元々の特性がありますから、そのことまで考慮すると、治療方針を視野に入れた摂食障害の診断は決して簡単ではないのです。

 

対人関係療法の治療の中で「やせたい気持ち」や「過食嘔吐」などの症状を聞くのは初診の診断の時だけなのですが、その情報をもとに摂食障害からの治り方の道筋をその人に合わせてフォーミュレーションするということを三田こころの健康クリニックでは行っていますよね。

そして16〜20回の対人関係療法による治療が終わる4〜6ヶ月後に症状が減ってくることはあっても、まだ残っている人がほとんどです。

それでもある患者さんは摂食障害症状評価尺度がすっかり正常化し、症状に焦点を当てない治療にもかかわらず、初診時にみられた「食べものの事で頭がいっぱい」「やせれば絶対に自信がつく」「過食のあと惨めな気持ちになる」「体重が増えるかもしれないと考えると怖くてたまらなくなる」「普段の食事のあとでも太った気になる」などが著明に改善していました。

 

しかし

どんなにきちんと対人関係療法を受けても、短期治療が終わる時点で対人関係の能力が十分に高まっているわけではありません。その後の日々の実践の中で育っていくのです。
これが、対人関係療法の効果が時間を経るにつれて伸びていく理由です。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

ということですから、治療が終わってからが本番くらいのつもりで『過食や過食嘔吐はクセ(習慣)になるのか?』で抜粋したようなことを意識して取り組んでいけば、確実に摂食障害からの回復に向かっていきますよね。

院長