摂食障害の病識欠如と治療関連のトラウマ

神経性やせ症(拒食症)の場合は、自ら痩せを求め、痩せにより達成感や自己コントロール感を得ているため、病気の初期では病識は欠如しています。
そのため自発的に医療機関を受診することは少なく、家族や学校関係者の勧めで受診となることが多くなります。
低体重になり、ふらつきなどの身体的自覚症状が出現することで病識をもつことがありますが、自覚症状が改善すると再び病識欠如の状態に戻ることが多く、充分な病識をもつまでには時間がかかります。
しかし、病気のままでいたいという思いがある反面、回復したいという思いも通常根底に存在するといわれます。
日本摂食障害学会監修『摂食障害治療ガイドライン』医学書院

摂食障害とくに拒食症では「具合の悪さは自分で感じていない」という病識の欠如が特徴で、体重は極端に低下しているので、入院治療では強制的に栄養を補給するという場合が多くなります。

そもそも病識と同時に、『精神療法を開始するタイミング』で触れた治療に対する動機づけの4つの段階のうち、どの段階か、ということも病識と関連するのです。

 

1)自分の状態を病気と認識していない段階
2)問題意識は芽生えているが、食行動を変えようとしていない段階
3)自分の状態を変えねばならないと考えている段階
4)治療を受けてきたが、うまくいかずに転医してきた段階

 

たとえば、上記の1)や2)の段階では、入院して体重によって行動制限を設ける行動療法では「退院するためだけに体重の数字を挙げる」場合もあり、有効な自己変容にはつながっていないため退院後に再び体重減少を来たし、入退院を繰り返すことになることもあるのです。

2007年の神経性やせ症のためのプライマリケア・ガイドラインでは、緊急入院が必要な場合は、以下の場合とされています。(『摂食障害の低体重の定義と重症度』参照)

 

1)全身衰弱(起立、階段昇降が困難)
2)重篤な合併症(低血糖性昏睡、感染症、腎不全、不整脈、心不全、電解質異常)
3)標準体重の55%以上のやせ(BMI: 11未満)

 

ただし、標準体重の55%以下でも数年継続している場合は緊急性が低い反面、著しいやせはないものの1ヶ月に5kg以上の体重減少があり絶食に近い場合は入院が勧められます。

向精神薬による薬物療法や、精神療法による治療よりも、全身状態の改善が優先であり三田こころの健康クリニックでは対人関係療法の適応は体重だけで決めるのではなく、BMI:16以上としています。

 

○患者が低栄養の改善に抵抗を示している場合は、精神科病棟でなければ治療が困難
○患者の意思に背いた強制治療が必要なことがあり、医療保護入院で扱わざるを得ない

しかしながら、摂食障害で病識が欠如しているだけでなく、さらに重篤な身体合併症を呈している場合は、内科的な身体管理を精神科の閉鎖病棟で行わざるを得ないことも問題として挙げられています。

 

このように医療現場は、生老病死を扱うという意味で、さまざまなトラウマ体験を患者や家族などにもたらしうる場です。
(中略)
これらのトラウマ体験の中には、疾患や治療の進行上、避けがたいものも多く含まれていますが、医療従事者の配慮や工夫によって避けられるものも少なくありません。
そういった配慮や工夫は、特に「トラウマ予防」と意識されることなく個々の医療現場で行われてきたことでしょう。
ただ、逆に心理面へのあまりの無配慮から、「医原性トラウマ」とでもいうべきものを、患者や家族に与えてきた医療機関も少なくないはずです。
宮地尚子『トラウマ』岩波新書

 

摂食障害で全身状態を改善するための入院治療は、はたして医原性のトラウマとなりうるのでしょうか?

水島先生の『摂食障害の不安に向き合う』にそのようなケースが掲載されていますよね。

 

A子は、体重が極度に減少したため、身体化で外来診療を受けていたが、痩せの原因がわからないということで、検査目的の入院を勧められた。A子は短期間の検査入院として了解し、入院した。しかし、さまざまな検査を行っても異常は何も見つからない。
そんなある日、A子は突然「拒食症の専門家」という医師を紹介された。そして「あなたは拒食症で、いつ死ぬかわからないほど身体が弱っています。今からその専門治療を始めます」とその医師に宣告された。
水島広子『摂食障害の不安に向き合う』岩崎学術出版社

 

さて、摂食障害の入院治療がトラウマになるかどうか、次回以降、また考えていきたいと思います。

院長