摂食障害の治療や回復へのモチベーション〜『8つの秘訣』補遺1

対人関係療法による治療のすすめかた〜「治療の土台作り」〜予備面接1』や『治療の土台作り』『精神療法を開始するタイミング』『治療準備性とモチベーション』などで書いたことがありますが、対人関係療法の2つの課題のうち「自分のまわりの状況(とくに対人関係に関するもの)に変化を起こすよう試みる」に取り組んでいくときに、「行動変容の準備がどのくらいできているか?」という治療準備性の把握が必要です。

 

8つの秘訣』では

1991年にDeClemente(デクレメンテ)とVasquez(ヴァスケス)が、依存症にくる始無患者さん用に、依存行動を理解し行動変容を促すためのモデルを発表しました。
2002年には、Geller(ゲラー)がそのモデルを使って、回復への動機と摂食障害との関連について、また効果のある治療法、順調な回復との関連について研究をしました。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

と「行動変容を動機づける5段階」として

1. 前熟考期:問題を抱えているとは思っていない、あるいは、今の状態を変えたいと思っていない。

2. 熟考期:問題を抱えていることを自覚し、今の状態を変えた方がいいのだろうかと漠然と思っている。しかしどこから始めたらいいのか、どうしたらいいのかわからない。

3. 準備期:今の状態を変えたいという心の準備ができており、行動にも移行したいと思っている。いろいろな選択肢を探して、インターネットで調べたり、セルフヘルプの本を買ったりしている。

4. 実行期:今の状態を変えたいと認識しており、実際に行動して、計画を立て、異なるやり方を試している。

5. 維持期:新しく習得した行動を続けて、問題行動を繰り返さない。

が挙げてあり、その一つ一つに対して、「自分自身に大切な質問をしてみる」で
自分がどの段階にいるのかを把握できるようになっています。

認知行動療法は、「絶対によくなろう」という意志を持った人にはとてもよい治療法だと思いますが、そうでない人には難しいことがあります。
(中略)
実際に、「自尊心」の低い人は認知行動療法から脱落する率が高いというデータがあります。
(中略)
一方、「食べ方はそのままでよいから、まずは対人関係の悩みから話し合っていきましょう」と言えば、私の経験からは脱落する人はほとんどいません。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

と書いてあるのですが、Wolk(ウォルク)とDevlin(デヴリン)らは

認知行動療法では、変化の段階は治療成績とは関係がなかったが、対人関係療法では、変化の段階は治療成績と関連があった。

と報告しています。

また変化の段階は、たとえば、むちゃ食い行動を変える準備はできていてもカロリー制限や過度の運動はやめられないなど、「摂食障害から回復する10の段階」の6番目と7番目の

6. やめられる行動はいくつかあるけれど、すべてはどうしても無理
7. 摂食障害行動はやめられるけど、摂食障害思考が頭から離れない

など、症状によって治療準備性が異なっていることを、前出のGeller(ゲラー)が報告しています。

 

たとえばSpangler(スパングラー)らの20週の3段階プログラムでは

・摂食行動の自己モニタリング
・食行動を支えていた思考や行動に代わる望ましい行動を身につける
・問題解決スキルやコーピング・スキル(陰性感情の同定、表現、リラクゼーション)
・対人関係状況分析:陰性感情への対処としてクライエントが用いる独特な対人的パターンの同定
・個人的要因分析:現実自己と理想自己の間の不一致を変化させる
・再発(recurrences)と増悪(relapse)に気づくこと、再発や増悪を抑制するための介入

からなっており、対人関係療法ではこのうちの「独特な対人的パターンを変化させる」に焦点をあてていくため、変化をおこす準備性の影響を受けることは当然のことなのです。

そのため、三田こころの健康クリニックでは、過食症の対人関係療法による治療を導入する際には
まず『8つの秘訣』を読んでもらっていますよね。

これがクリアーできてないと、過食や過食嘔吐の話に終始し、患者さんは症状の辛さをわかってもらうことで安心するだけでますます変化が起きにくくなってしまうのです。
(『行動変容の動機づけと対人関係療法』参照)

これは「熟考期」や「準備期」から「実行期」に進む必要な課題というだけでなく、「実行期にあるクライエントは、症状が少なく、精神医学的問題のレベルも低かった」という前出のGeller(ゲラー)の報告に基づく導入の仕方なのです。

 

これから過食やむちゃ食い、あるいは過食嘔吐の対人関係療法による治療を受けたいと考えていらっしゃる方は、『8つの秘訣』の秘訣1に取り組んでみておいていただくと、治療導入がスムーズに進みますよね。

院長