摂食障害の治療で取り組む自己主張と対人関係

自分自身と他者との関係を改善し摂食障害から回復する』で紹介したように、「対話型・思考記録」を対人関係に適応する際には、『摂食障害を維持している対人関係パターンを変えていく』で書いたローゼンバーグの非暴力コミュニケーション私は何を観察しているのだろうか?」「私は何を感じているのだろうか?」「私は今何を必要としているのだろうか?」「私自身あるいは他者に対する要求は何だろうか?を使って、自分の気持ちを明確にしておく必要があります。

明確にした自分の気持ちを「別の受け止め方」の形でコミュニケーションしてみるのです。

 

誰かが、「君が敏感すぎるだけだ」とか、「そんなふうに感じるなんて馬鹿げている」とか、「あなたは間違っている」と言ってきたときには、自分の身を守るような言動をしないことが大切です。
代わりに、言いがかりから身を引くためにこのような対応をしてください。

「そうかもしれないね。……」(同意も反論もしていません)
「それがあなたの考え方だ、ということはわかります。……」
「あなたの意見を尊重します。……」

そして、「……」の部分に自分の考え方や見方を入れてください。

「……でも、これが私の気持ちなの」
「……でも、私は違う見方をしています」
「……でも、あなたのしたことが私の気持ちに影響したということを知っておいてほしいわ」

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

ここで、「……でも」に関して、注意しておく必要がありそうですよね。

 

「摂食障害の部分と健康な部分の対話」や、現実の人間関係で相手の意見を承認し(共感・ねぎらい)、「別の受け止め方(別の考え)」を提示するときに「イエス・バット(はい、でも)」を使ってしまうと、矛盾や無力感を引きだしやすくなってしまうのです。

一般的には「でも」は、例外を示すときによく使われる言葉(逆接の接続詞)で、「しかし」「しかしながら」の意味で使われるときには前の言葉とは逆の結果を強調しますから、対立関係を引き起こしやすくなりますよね。

そのため、自分の気持ちや考えを強調したいときには「ただ」とか、「そして」「一方で」「また」のような並列・添加・対比の接続詞を使った方が優しく伝わるのではないかと思いますよ。

 

そして、三つ目に使うのが「壊れたレコード」と呼ばれるテクニックです。
相手が攻撃的な返答をしてきたとき、その名の通り、壊れたレコードや選挙カーのように、何度も何度も繰り返し自分の感情を伝え続けるのです。

(中略)

ここで大切なのは、あなたは一切旦那さんに、彼は何をすべき・すべきでないと指示していないことです。攻撃もしていません。ただ単に、彼の行動があなたに影響を与えているという事実を伝えているだけです。

「壊れたレコード」のテクニックを使うときには、他の問題や言いがかりに惑わされることなく、自分の気持ちに集中し続けることが大切です。
その場ですぐにとはいかなくても、いずれ相手も泥仕合のような攻撃をやめるものです。
そしてうまくいけば、あなたの言い分を聞いてくれるようになります。
いずれにしろ、あなたは自分の感情を突き止め、それを表現することで、自分をケアできているのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

「自己主張」「かわす」「壊れたレコード」のテクニックは、効果があるだけに諸刃の剣となりやすい危険性もはらんでいます。

「知っておいてもらう」ことが自分にとってどんなメリットがあるのか?と「期待」を明確にしておく必要があります。

ただ、ここでも注意すべき点があります。
日本語の「期待」は「要求」とほぼ同義ですから、相手の言動を変えることで自分が満足したい「承認欲求」で行うと逆効果になってしまうのです。

 

例えば、家族が摂食障害のお子さんに「私たちも心配しているのよ」と壊れたレコードのように伝え続けることで、親子関係はどのような影響を受けるでしょうか?

家族は「子どもが治ってくれないと自分の心配は解消されない」と、子どもの摂食障害行動に注目しコントロールするようになりますし、摂食障害の子どもは「親に心配をかけている」と自分を責めるようになるでしょう。

 

同情(他者に対する心配と思いやり)による「共感の過剰な喚起」によって、「自己焦点化(個人的苦悩)」が引き起こされ、自分自身のネガティブな感情を緩和しようとする欲求が生じてしまうからなのです。

自分の心の状態に注意深く気づきながら「自己主張」を行う必要があるということですよね。

 

自己主張を学びたての頃は、たいていの人が、「どうせ効果ないでしょ」「私の言うことなんて聞いてくれない」「言ったってやめてくれない」と言います。
しかし自己主張では、相手の言動を変えることを目的にしてしまうと、イライラするだけだということを覚えておいてください。
一方、自分の感情をため込まずに伝えることを目的にすると、気分は良くなり、成功する確率も上がります。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

「伝えることは効果がない」「言ったとしても何も変わらない」ということになってしまうのですが、そうではないのです。

自己主張の方法は、(1) 自分と他者の間で心の動きを共有すること、(2) 自分と他者が別の人間であることを理解すること、(3) 自他の区別を明確にしながら自分の視点を抑制し他者の視点を獲得していくこと、によって、心理的柔軟性と自己統制を生み出す優れた方法とされているんですよ。

 

院長