摂食障害の治療で取り組む「心の状態の変化についての気づき」

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている摂食障害(過食嘔吐やむちゃ食い、あるいは大食を伴う排出性障害)に対する対人関係療法による治療では、まず、【自分との関係を改善する(心の状態の変化についての気づき)】に取り組んでもらいますよね。

 

この取り組みは、自分の心を振り返り「自分が何を考えて、どんな気持ちになって、身体では何を感じているのか」をわかるようになる自己モニタリング(自己内対話)の練習ですよね。(『8つの秘訣』「秘訣3食べ物の問題ではありません」参照)

自分の気持ちは、考えに身体が反応して引き起こされたものであることがわかるようになってくると、「誰しも感じる気持ちを苦悩に変えないこと(感情体験の回避をストップすること=気持ちを抱えておくこと)」に取り組みます。(『8つの秘訣』「秘訣4気持ちを感じて、自分の考えに抵抗してみよう」参照)

 

この症例をみてもわかるであろうが、アディクションの治療の第一歩は、まずアルコールや薬物の使用やさまざまな衝動行為の背景にある一人ひとりのアディクト固有の感情に気づいてもらうことである。それができて初めて、アディクションの治療は第二段階に進むことが可能になる。

つまり、これからも人を頼らずアディクションに頼って感情に蓋をし続けるのか、それともさまざまな他者に頼って感情を表出する練習へと一歩踏み出し、信頼障害を克服する旅に出るのか、アディクト本人に迷ってもらう段階である。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

そして、代償行動(自己誘発嘔吐)や習慣化した過食や大食(ダラダラ食い)をストップする【行動の仕方を改善する】こと、および、自分の気持ちを言葉にして表現する【他人との関係を改善する】に取り組めるようになっていきます。(『8つの秘訣』「秘訣5やはり食べ物の問題なのです」「秘訣6自分の行動を変えるということ」「秘訣7摂食障害にではなく人々に助けを求めよう」参照)

 

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法による治療で、最初から他者とのコミュニケーションを勧めないのは、いくつかの理由があるのです。

その理由の1つは、「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」は、気持ちや身体の感覚を感じるのが苦手(アレキシサイミア傾向)な人が多く、摂食障害行動が唯一の気持ちの表現方法あるいはコミュニケーション手段になっているからなのです。

 

アディクトの我慢の期間が幼少期から長期にわたり、信頼障害の程度が重症であればあるほど、言語による自己表現が全般的に乏しくなる。その場合、アクティングアウトが唯一の自己表現であると同時に、みずからの感情に蓋をするための対処行動なのだ。

突然のアディクションの再発やアクティング-アウトが確認されたら、まず援助者はそのおおよそ24時間以内に起きた出来事や対人関係のエピソード、自分の頭の中によぎった考えや思いなどについて、アディクト本人から聴いてみたほうがいい。
そして、それらエピソードや考え、思いに対応した「感情の名前」をアディクトと援助者が一緒に探すことから練習を始めなければならない。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

アディクトたちと同じように「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」も言語による自己表現が苦手で、「食べること」「吐くこと」などの単独行動で自分の感情や感覚を感じないようにしたり、なかったことにしたりしてしまいます(みずからの感情に蓋をするための対処行動)。

そのため、他者とコミュニケーションを取る前の段階として、「何が起きたのか」「その時何を考えてどんな気持ちになったのか」について、ローゼンバーグの非暴力コミュニケーションを使って「自己内対話(心の中の考えや気持ち、体の感覚を振り返ること)」の練習をしてもらっていますよね。

 

この「自己内対話(自己モニタリング)」を進めてからでないと、「食べたい(欲しい)」と「食べ物(好き)」に関するシステムが分断されてしまい、喜びを感じずに食べ物を渇望し続けてしまうのです。

その結果、患者さんのコミュニケーションは、「食べたい(欲しい)」を満たすために他者にグラム単位で食べ物を計ることや、過食の食材の買い出しを強制する「命令」や「要求」になってしまうのです。

 

過剰適応は、心の中のさまざまな欲求や感情を必要以上に犠牲にすることで環境に適応しようとする一連の認知行動パターンである。
長年過剰適応を続けてきたアディクトは、犠牲にしてきた欲求や感情に関する感度が著しく低下してしまっている。それらは心の引き出しの奥に押し込まれたまま、存在することさえ本人が忘れてしまっていることも多い。

したがって、過剰適応から脱出するための第一歩は、忘れてしまった欲求や感情に気づくことにある。そして気づいた後はそれを適切に他者に言葉にして伝え、共感や承認を得る必要がある。
周囲に本音を出しても、全体の雰囲気が悪くなったり、誰かに見捨てられたり非難されたりしないという成功体験を重ねていけば、いずれは自分の感情を犠牲にしすぎず環境に適応できるようになるはずである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」にとって大切な人(重要な他者:アタッチメント対象あるいはセーフティ・パーソン)とは、思春期であれば両親や親友、青年期から成人期であれば交際相手や配偶者(パートナー)、場合によっては職場関係者などですよね。

 

アディクトにとって見捨てられたくない人とは、大切な周囲の人々、つまり家族や恋人、職場の関係者などであることが多い。見捨てられたくないからこそ、アディクトにとって最も本音が言いにくい人々でもある。
そのため、本音の感情を正直に「人」に話す練習相手として不向きである。
だからこそ、アディクトが最初に出会う援助者こそが、最初の格好の練習相手なのである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

対人関係療法で「自分の気持ちをよく振り返り、言葉にしてみる」練習は、まず治療者との間で行いますよね。

「本音の感情」ある患者さんはブログで「心の声=魂の声」と書いていらっしゃいましたを正直に表現できるようになるために、治療のはじめには変わりたいというモチベーション(回復への動機の段階)と治療者との関係が土台になるのです。

 

アディクトと初期援助者との「一対一」の関係が信頼と安心の関係になり、アディクトが比較的容易にみずからの喜怒哀楽を援助者の前で出せるようにならなければ、自助グループやリハビリ施設という「一対多」の場面でアディクトが安心して話せなかったとしても不思議ではない。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

治療者との関係を構築したり、治療が終結して治療者との別れを体験するときに、「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)」と治療者のアタッチメント・スタイルが影響することがありますので、次回以降、アタッチメント(愛着)に焦点を当てて、治療のプロセスを見ていきましょう。

 

院長