摂食障害の個人的要因

摂食障害の治療では、標準的な治療方針を定型化することが難しく、個別性が重視されることが知られています。

ある学会の抄録で摂食障害をまとめてみると、摂食障害患者の「個人要因」として

・低い自己肯定感や強い劣等感(低い自尊心)
・他人の評価を過度に気にする(評価への過敏性
・自分より他人を優先させる行動パターン(“顔色を読む”(評価への過敏性))
・情緒抑制的態度(アレキシサイミア傾向
・コミュニケーション能力の稚拙さ(ストレスを感じても言語化して伝える事ができず、その場から立ち去ることで対処)

などが挙げられていました。

上記の「情緒抑制的態度(アレキシサイミア傾向)」の特徴は、

(1) 自分の感情や身体感覚に気づいたり、区別することが困難
(2) 感情や身体感覚を言葉で表現することが難しい
(3) 貧弱な想像力、想像力の制限
(4) 内省(自分自身を客観視する能力)の困難さ
(5) 自己の内面より、刺激に結びついた外的な事実に関心が向かう

などが挙げられますが、この中核は

・感情や身体感覚への気づきと言語化困難
・空想や内省の困難

という2つの因子であるといわれており、最近の脳画像研究では、前部帯状回、島皮質などの部位に異常があり、2つのことの同時遂行や情動や体性感覚の困難と関連があることが示唆されています。(『アレキシサイミア〜右脳機能不全』参照)

 

アレキシサイミアは、同時に「失体感症(アレキシソミア)」を伴うことが多く、空腹感などの身体的な欲求も抑圧されているだけでなく、ストレスなどによって、身体症状を起こしやすいのです。

たとえば健常者でも「周囲に気を遣いすぎる(緊張する)」など、過剰に適応した場合には、自分の気持ちや身体の感覚に鈍感になってしまうことも知られています。

またアレキシサイミアやアレキシソミアを背景にして、摂食障害、とくにストレスを麻痺させるための過食がある「過食症」や「むちゃ食い障害」が発症してくることも多いのです。

脳内でセロトニンが欠乏すると炭水化物を渇望するようになり、炭水化物を過剰摂取することで、脳内のセロトニン合成が促進し、一時的にうつ症状を軽快することがわかっています。

ところが摂食障害を発症したばかりの思春期では、セロトニンが関与した過食のメカニズムは認められないのです。
でも「“身体”への不信」によって心身の緊張状態が長く続くと徐々にセロトニン欠乏が進行していくのです。

摂食障害という状態は、意志の力で身体を過度にコントロールしようとするところに生まれる。
ここには“自己”と“身体”の分離があり、“自己”による“身体”への不信がある。
中村英代『摂食障害の語り』新曜社

アレキシサイミアやアレキシソミアが背景にあると、自分の感情を指標にすることができないため、不快な感情が生じるストレスを適切に発散することが難しく、他者に援助を求めたり、他者からの援助を十分に生かせず、過剰適応の結果、疲弊反応や適応不全を起こしやすくなることが、摂食障害の発症の誘因と考えられますよね。

 

ということは、摂食障害からの回復は、感情を指標に周囲の人たちとの関係を変えていき、自分自身の身体とのつきあい方を学んでいくこと、つまり対人関係療法で行っていく内容こそが摂食障害からの回復につながるということになりそうですよね。

院長