摂食障害に薬物療法は有効なのか

おそらくこのブログをお読みになっている多くの方は精神科や心療内科の外来に通院され、薬を服用されていることと思います。(『摂食障害の経過と予後』参照)
薬物療法の効果を否定するつもりはありませんが、不必要や不適切な薬物療法がすごく多いのです。

 

「神経性過食症」や「むちゃ食い障害/過食性障害」は、抑うつや不安障害を高率に併発することから、抗うつ薬や抗不安薬の投与が行われていることが常態のようです。

以前、井原先生が、『うつ病臨床における「えせ契約」(Bogus contract)について』という論文で

「うつ病は脳の病気」とのテーゼは、うつ病臨床における「えせ契約」の温床となっている。
「うつ病は脳の病気」と宣言すれば、直ちにコミュニケーション・ギャップが生じる。
医師側は、自身の責務を薬物療法に限定させようと思ってこう宣言するが、患者側は、逆にすべては薬で解決してもらえるのかと錯覚する。
その際、両者は、重大な事実を隠蔽する。
医学には限界があり、人生のすべての問題を抗うつ薬が解消してくれるわけではないという自明の理である。
このテーゼが危険なのは、精神科医の側に治療者としての不安を脳仮説に固執することで解消しようとする強迫観念としての側面があるからである。
脳仮説に対する信念の強さは,面接技術の自信のなさと比例する。
井原裕:うつ病臨床における「えせ契約」(Bogus contract)について.精神経誌, 112; 1084-1090, 2010

と、精神科のメンタル外来に持ち込まれる内容について、「人生のすべての問題を抗うつ薬が解消してくれるわけではない」と面接技術に自信のない精神科医の不安が薬物療法に投影されていることに手厳しい批判をなさっています。

 

水島先生は『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』の中で

抗うつ薬を中心とした薬物療法は、一時的な効果しかないことがわかっています。
私は過食の症状の治療に薬を使うことはありませんが、こだわりが病的に強い人や、うつが強い人には抗うつ薬を併用します。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

と、「過食/むちゃ食い」という症状の結果生じる不安や抑うつには効果は一時的でしかないとおっしゃっています。

 

よく考えてみるとうつ病では食欲低下あるいは体重減少を来しますから、その治療薬である抗うつ薬(SSRI)は食欲を増進させる作用があり、過食症で抗うつ薬を処方されている方では、効果が感じられないか場合によっては過食がひどくなるということあるので注意が必要です。

ちなみに「神経性やせ症/拒食症」で投与されることの多い非定型抗精神病薬は、「やせ願望」やBMIに影響をおよぼさず逆に不安と摂食障害の症状を増大させた、と報告されています。

 

過食症には、ガイドラインで推奨される治療薬はありませんが、最近では食欲過剰、気分調節、衝動制御に関連する神経伝達物質やグルタミン酸シグナル伝達回路の研究が行われています。

例えばその中で、抗うつ薬は過食症に対して有効性に乏しく、ある種の抗てんかん薬は食欲や衝動制御に効果がありますが、だれにでも効く万能薬ではなく、有効性がみられるタイプの人はADHD様の症状を呈するけれどもADHDではない人や、循環気質や発揚気質など双極性障害に通じるような「ある種のtrait(特性)」をもった人に有効な印象があります。

では「ある種の抗てんかん薬」は過食症の治療薬になりうるかというとそうではなく、

(摂食障害は)薬を飲めば治るような単純な病気ではありませんが、飲むことによって治療が楽になることがあるのです。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

と水島先生も書いておられるように、あくまでも薬は治療(対人関係療法)をスムーズにするための
ギプスや松葉杖のような位置づけ
であり、対人関係療法は「過食に代わる本質的なストレス対応策を身につけていく」リハビリのようなもの、と考えていただくとわかりやすいかもしれませんね。

 

前出の井原先生は

精神療法には、「公然の秘密」がある。
もっぱらそれが個人の独創性に依存するということである。
結果として力量に巨大な個人差が発生する。
井原裕:うつ病臨床における「えせ契約」(Bogus contract)について.精神経誌, 112; 1084-1090, 2010

とおっしゃっていますから、もう治らないとあきらめるのではなく、思い切って、三田こころの健康クリニックに相談してみて下さいね。

院長