摂食障害と脳機能

過食(むちゃ食い)や過食嘔吐の治療2』で書いたように、過食症では、前頭前野の機能低下があり、不快な刺激に対して情動制御困難が生じていますから、『8つの秘訣』や対人関係療法による治療で自分の気持ちをふり返るようになると、苦しくなったり、過食が増えたりすることもあります。

 

これは病気が悪くなったということではなく、進歩だということです。

回復への道を進むにつれて、内面の気持ちには気づきやすくなりますが、同時に気持ちがより強く感じられるようにもなります。
それまでずっと覆い隠されていた無数の気持ちともう一度つながろうとするからこそ、回復への未知を歩み始めたばかりの頃は一時的に苦しさが増強しがちなのです。
回復するときには、人生に起き得るさまざまなストレス因子に関連した気持ちを、摂食障害行動を使わずに、また逃げたり覆い隠したりする別の方法も一切使わずに、ありのままに感じる事になります。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

8つの秘訣』には、「摂食障害を通じてホメオスタシスを維持するようになった、といえるかもしれません。」とあるように、過食症では迷走神経同士のフィードバック・ループが不安定で、いったん、過食+自己誘発嘔吐のネットワークができると、「特にこれといった嫌な出来事があるわけではなくとも、
摂食障害行動が容易に起きやすい状態になります。」

 

過食や過食嘔吐といった摂食障害行動の引き金は、『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』にもあるように最初は「ストレス」と呼ばれる出来事に対する反応です。

摂食障害の人たちにとっては、身体は、コントロールできない感情の戦場である。
激しい感情の嵐を乗り越えるための動きが完結していないままの戦場である。
宮地尚子「食べることの調律もしくは食べることの失調−−複雑性トラウマと摂食障害」そだちの科学 25 (10): 77-82, 2015

このような状態になると

実際、その段階になると、摂食障害行動に従事していないとかえって落ち着かなくなるでしょう。
(中略)
その状態になると、摂食障害行動をしていなければ感じるはずの気持ちにも、ほとんど気づかなくなります。
つまり、摂食障害行動をしていると自分の心の中にある気持ちに気づかなくなるのです。
このように、自分の気持ちを理解してしっかり感じ取るためには、摂食障害行動をやめることがただ大切なだけでなく、ぜひとも必要になるのです。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

前出の宮地先生は(前掲書)、「過食嘔吐などの嗜癖症状の軽減と、アタッチメントの修復、そして
トラウマ症状の軽減を同時並行に行うことで、良循環になり得ることもある。」と書かれています。

トラウマ反応とアタッチメントについては、『愛着トラウマの脳科学』で書きましたので参照していただくとして、最近の脳機能研究では、摂食障害の人では、前帯状回と島の機能不全があることがわかってきました。

これらの部位は、内的な感覚への気づきや、感覚的情報と感情との統合、行動への動機づけ、攻撃的または行動的衝動の調整にかかわっています。

つまり摂食障害では『マインドフルネスの脳科学』で触れた、「顕現性ネットワーク」に関わる中枢が機能不全をおこしているのです。

 

宮地先生は「(過食嘔吐の治療では)身体技法、マインドフルネスなどで身体への気づきを高めることが役立つ。」と書かれているように、過食症やむちゃ食い障害などの治療では

・マインドフルネスで衝動と向き合い、嗜癖症状とトラウマ症状を軽減すること
・対人関係療法によるアタッチメント関係の修復

の2つ、つまり自分自身と折り合いをつけることと、周囲の人たちへの信頼感をつなぎなおすことが必要
ということですよね。

院長