摂食障害が「治る」ことと、摂食障害から「回復した」状態

摂食障害から回復するための8つの秘訣』のP.18〜19に【摂食障害から回復する10の段階】が挙げてあります。

そのなかの「10. 回復した」には、「もうずいぶん経つけれど、摂食障害に関連した思考や感情や行動はない。今の体型が自然に思える。摂食障害は過去の出来事になった。」と書いてありますね。

自身も摂食障害から回復した経験をもつキャロリンは、私たちは、治療の最終目標を「回復している」や「回復する途中」などとは言わないで、あえて「回復した」状態と表現します。なぜなら、「回復した」状態こそが、私たち自身が今、感じている状態ですし、私たちのクライエントさん全員に対しても、その状態を最終目標として設定しているからですと述べていますよね。

8つの秘訣』には、摂食障害が「治る」ということ、摂食障害から「回復した」状態について、明確な目標を掲げてあります。
摂食障害の治療を始めるとき、ゴールをどこに置くかはすごく大切なんですよ。

 

「回復した」という言葉と概念は、私たちの治療においては、とても重要ですので、あいまにならないように正確な意味を伝えておきます。
「回復した」の、統一された一般的な定義はありません。研究者同士でも使い方が異なっているほどです。
たとえば、摂食障害の診断基準を満たさなくなったから「回復した」とする考え方があります。しかし、診断基準を満たしていなくても、症状に苦しんでいる人は現実にたくさんいますので、私たちはその状態を「回復した」とは考えていません。私たちは、「回復した」という定義には、もっと広範囲な要素を組み入れることが大切だと思っており、しかも安定してその状態でいられるという点を強調したいと思っています。

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

8つの秘訣』では、診断基準を満たさなくなること、つまり症状が残っていても頻度が低ければ「治った」「回復した」とする考え方は取らないということですよね。

 

摂食障害が「治る」ということについて、患者さんから質問をうけました。

「『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』には、症状が残っていても、症状に振り回されないことや、症状によって生活が乱されなくなることが「治る」ことだと書いてありましたけど、違うんですか?」と。

皆さんはどうお考えになりますか?

 

「病気が治る」というのは、「体型が気にならなくなる」ということではなくて、「体型へのこだわりが生活を乱さなくなる」ということだと考えてください。
今後、さまざまなストレスと出会う中で、摂食障害の症状が再発することはありえます。拒食や過食嘔吐などの症状が再発したときには、自分が抱えているストレスをしっかりと考え、正しいコミュニケーションによってその問題を解決していく、という方法が常にとれるようになれば、「摂食障害が治った」と言えるのです。なぜなら、どんどん病気が重くなって生活を乱すということにはならないからです。

水島『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

 

上記で説明してある「治る」ことを『8つの秘訣』の【摂食障害から回復する10の段階】に当てはめると、「6. やめられる行動もいくつかあるけど、すべてはどうしても無理」「7. 摂食障害行動はやめられるけど、摂食障害思考が頭から離れない」に相当しそうですよね。

これらの段階は、『8つの秘訣』でいう「回復する途中」であり、「「回復した」状態」とはちょっと違うようですね。

 

主訴として臨床に持ち込まれた問題が解決することが「治る」ということで、解決しなければまだ治っていません。解決できない問題であれば、解決できないなりの落着点をさまざまに探るしかありません。いずれにせよ、「治る」という過程で患者は力強く軽やかに変化していきます。

「治るとは何か」とか「治ったという定義は何か」という屁理屈に逃げ込み、治療効果をあいまいにする傾向が精神科にはあり「いったん治ってもまた悪くなるんだから治ったとは言えない」という物言いまで聞きます。もしもそれで「治す」という介入がおろそかになるとすれば変な話です。
例えば、肺炎だって治っても再発することはよくありますが内科医は目の前の肺炎患者を治そうとします。「また肺炎になるんだから」と治療をあいまいにする内科医など聞いたことがありません。

芝田『臨床行動分析のすすめ方』岩崎学術出版

 

よく考えると、肺炎に罹ってまだ熱が出て咳が続いているのに「治った」とか「回復した」とは言わないように、過食嘔吐が残っているのに生活が乱されないことはあり得ないわけです。

高名な治療者にかかっている30代半ばの娘さんのことでお母様が相談に見えました。
「私の言うとおりにすれば必ず治る」と豪語する治療者の指示で、娘さんは仕事もしているのに過食費は親が肩代わりさせられ、70歳過ぎのお母様は杖をつきながら、過食食材と嘔吐用の水10Lの買い出しを毎日数往復手伝わされていました。
娘さんは治療者の言を笠に着て、お母様に調べ物や掃除、結婚相談所の申込みなど居丈高に指示していらっしゃるそうです。

お母様は、体力の衰えと蓄えがそろそろ底を尽きかけたことを悲嘆され、「まるで奴隷のような生活が10年以上続いてます。いつになったらこの苦しさから解放されるんですか?あの治療者にかかっていて娘は治るんですか?」と、面接中に涙をこぼされました。

このように摂食障害の症状と不適切な治療?によって、本人の生活だけでなくそれを取り巻く家族の生活も乱されてしまい、崩壊してしまうのです。

 

一方、「体型へのこだわり」があって、「食生活はよくなったけど、今度は運動がやめられなくなった」り、「頭の中でカロリー計算ばかりしていて、今でも体重を減らしたいと思っている」状態が、日常生活を制限しないということもあり得ないわけですよね。

 

「回復した」とは、ありのままの体重と体型を受け容れることができ、身体に害を及ぼすような食べ方や運動をしなくなったときのことです。

「回復した」ときには、食べ物や体重はあなたの生活の中で重要な位置を占めることはなくなり、体重はあなたの存在そのものよりも価値のあるものではなくなっています。体重計が示す数値などは、まったく意味を持たなくなるか、持ったとしても参考程度でしょう。

「回復した」ら、健康を害して自分自身の心傷つけてまでスタイルにこだわったり、小さいサイズの服を着たり、自分の決めた目標値まで無理に体重を減らしたり、などということはなくなります。

「回復した」としたら、摂食障害行動を使って、日常の他の問題に対処したり、問題を避けたりする必要はなくなるのです。

(原著『100 Questions & Answers About Eating Disorders』 pp.164)
コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

「症状に振り回されないことや、症状によって生活が乱されなくなることが「治る」こと」という屁理屈に逃げ込まずに、きちんと「摂食障害から「回復した」状態」のゴールを定めて治療に取り組む必要があるということですよね。

 

院長