摂食障害から回復する旅の準備を始める

感情を感じてみるということ』で身体感覚を使った生の情緒への触れ方を説明しましたよね。

「アタッチメント(愛着)」の中核的機能は、情動調整であることが知られています。
しかし、高水準の苦痛と不安定な愛着が並行して存在すると、物質乱用が愛着の代わりの情動調節の方法になることがあります。

 

情緒反応を引き起こした外的・内的な出来事と、その情緒によって引き起こされる行動(例えば、過食/むちゃ食いや自己誘発嘔吐)との間に「リフレクティブな(自分自身を省みる)思考」を介入させるために、「一時停止ボタンを押す」必要があります。対人関係療法でも取り組みますし、『8つの秘訣』P.209にも「衝動の波に乗った」まま内面を探ると書いてありますよね。

 

しかし、コントロールを賭けた終わりなき闘いに疲れ果て、消耗しきった女性たちは、誰も自分を治すことはできない、奇跡を起こす薬も魔法のようなダイエットもないと気づきます。

そしてやっと、唯一の解決方法は、自分の内面に向き合い、心の闇を探究し、今まで隠していた自分自身に直面し、なぜ食べ物を使ってしまうのかを理解することにあると気づくのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

自分の心をふり返ることと同時に、他者の精神状態に関する認識をふり返るメタ認知を合わせたものを「メンタライジング」あるいは「リフレクティブ・ファンクション(省察能力)」と呼びます。

この心の働きを獲得するためには、食べ物を使って自分の気持ちを見ないようにしたり、なだめたり、無かったことにしたりする方法は、効果がなかっただけでなく逆効果だったことに気づくことからスタートします。

 

食べ物と体重への執着から解放されたいと願う女性は、複雑に絡まり合った思考、感情、そして欲望の迷宮を進んでいくと、いずれ自分の中心部へたどり着きます。
そこで、完全なる克服を達成するには、自分という人間の奥深くまで下りていき、隠しておきたいような自分自身も含め、ありとあらゆる側面に立ち向かう意欲が必要だと気づくのです。

(中略)

しかし、乱れた食行動に悩む女性たちは長い間この冥界、つまり心の闇への旅を恐れてきました。旅で何か嫌なことを発見してしまうのではないかと恐れているのです。
そして、見て見ぬふりをしたり、自分の一番奥深くにある、重大な秘密が眠っている心の闇の大切さを否定したりすることで、この恐れに対処してきました。

冥界はずっとその不可思議な存在に気づいてもらおうとしていましたが、本人たちは、食べたり、体重に集中したり、ランニングしたりして、頑なに気づかないふりをしてきました。自分の中のあらゆる側面を持ち合わせる影の姉妹に直面しないようにするためなら、何でもしました。心の闇に住むこの影の姉妹のことを、女性たちはずっと否定し、押し殺し続けてきたのです。

しかし、無視しようとすればするほど影の力は増し、結局は、執着や依存という形で人生を乗っ取ってしまうことに気がつきます。食べることに依存し、体重に執着し、強迫的にランニングをするようになるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

「心の闇に住むこの影の姉妹」は、「私(イナンナ)」にとって、心の闇に蠢く「鬼(悪魔)」と感じられていました。
実は「影の姉妹」は「内在化されたインナーマザー(ヨソモノ自己)」によって、抑圧・攻撃されていた「自己表象」の一つの側面だったのです。(「インナーマザーと愛着(アタッチメント)の対人関係療法」参照)

 

彼女たちもイナンナのように、旅を続けるには、服、つまり、こうあるべきだとして外の世界に見せている自分を脱ぎ捨てなければならないことに気づきます。

こうして、長いこと隠してきた感情や欲望を自分自身に対してさらけ出すのですが、「私はわがまますぎる……私は敏感すぎる……本当の私なんて誰も好いてくれない……」と、自己批判の波に飲み込まれそうになってしまいます。

しかし、こうあるべき、という文化や社会からの期待を脱ぎ捨てることができてはじめて、ありのままの無防備な状態になり、自分の本当の姿、真実に直面する準備ができた状態で、自分自身の中心へたどり着けるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害は「自己批判(自責)」から始まります。

自分に対して「ダメ出し」をし、「完璧でなければならない(べき思考)」と、「良い自分 vs. ダメな自分の葛藤(白黒思考)」の中で、ありのままの現実から目を背け、かりそめのコントロール感に浸る「拒食」、葛藤によって生じた感情をなぐさめ麻痺させる「過食」や、満たされなさをなだめるための「ダラダラ食い」、あるいは、なかったことにする「嘔吐などの排出行為」が起きてきます。

 

摂食障害から回復するためには、自分と向き合う準備、回復までたどり着くための旅の準備が必要です。

8つの秘訣』を併用した対人関係療法による治療では、「治療準備性(行動変容を動機づける5段階)」を重視しますよね。

「こうした問いを自分なりに掘り下げていく作業は、前進し続けるためには絶対にと言っていいほど必要なことです。(中略)また、どれだけ回復への動機があり、どれだけ心の準備ができているかを確認することで、新しい方法で物事を考える必要があると気づくことができるでしょう。(8つの秘訣)」

 

しかし、摂食障害という嶮しい山を越える準備をするのも、実際に山を登っていくのも、自分一人では大変な作業と感じられ、途中で心が折れてしまいそうになることも何度もあるはずです。

回避の病である摂食障害から抜け出す道案内(治療)の準備として、三田こころの健康クリニック新宿の【専門外来】では、自分の心と馴染んでいくことを目的とした摂食障害の【ガイド付きセルフヘルプ面接】を始めました。
【ガイド付きセルフヘルプ面接】については、「摂食障害情報ポータルサイト(専門職の方)]の「摂食障害の治療 心理療法」の「ガイデッドセルフヘルプ」を参照してくださいね。

 

院長