摂食障害から回復するために自分自身との対人関係に取り組む

「乱れた食行動(摂食障害症状)」から回復するためには、乱れた食行動(摂食障害症状)が肩代わりしてくれていた「感情を受け入れ、調整し、なだめ、変容する能力」を自分がもらい受け、それを高めていくことが必要です。

そのため、摂食障害の治療で取り組んでいくことの2つの大きな柱のうちの1つとして、個人内感情制御のプロセスを理解する必要があります。

 

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来では、「考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する)」「心の状態の変化についての気づき(行動の仕方を改善する)」を教えていますよね。

 

言い換えれば、人は、メンタライズすることとマインドフルであることによって———つまり、自分の感情に注意を向けること、それを受け入れること、その根底にあるものに興味を持つことによって———情緒的苦痛に対処することができるだろうということです。
このような態度で、人が他者を慰めるか他者からの慰めを受け取るのとちょうど同じように、人は自分自身を慰めることができるでしょう。

不幸なことに、不安定型愛着も、自分自身と関わるためのモデルを与えてくれます。
つまり、人は、自分の感情を無視することができるし、その感情を抱いているからという理由で自分自身を批判することもできます。最悪の場合、人は、自分自身に対して、無視し虐待するような形で関わることができます。

自分自身に対する愛着の安定性を知りたければ、不安だ、悲しい、腹が立つ、後ろめたい、恥ずかしいと感じるときに、自分が自分自身に対して何を語りかけているかに注意を向けるだけでよいのです。

J.G.アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房(下線と斜体は筆者)

 

素敵な物語』の「感情—心からの贈り物」「人間関係—真実をうたうということ」「自己主張—自分に正直であるということ」「糧—体対心」「日記—真実の記録」や、『8つの秘訣』の「摂食障害の部分と健康な部分を対話させよう」「歪んだ思考と対話してみよう」などは、専門外来で「自分自身との対人関係」と呼んでいる個人内感情制御のプロセスを理解するための取り組み(自己内対話)なのです。

 

自己内対話は、ゲシュタルト療法の「二つの椅子の対話(エンプティ・チェア)」としてよく知られています。気持ち(感情)を身体感覚として捉えなおす「ボディスキャン」もある意味、自己内対話と言えるかもしれませんね。

8つの秘訣』ではノートに書くやり方で取り組みますが、専門外来では院長が「二つの椅子の対話(エンプティ・チェア)」のデモンストレーションをやってみせたり、あるいは『デーモン・ワーク』でも使ったりしていますよね。

 

多くの患者さんが、「摂食障害の部分と健康な部分の対話」「歪んだ思考との対話」でどっちがどっちなのか、わからなくなってしまうとおっしゃいます。

実際に、椅子を向き合わせて行う自己内対話は、頭の中だけで行うのとかなり違います。痛みを伴う気持ち(あるいは摂食障害思考)を明確に分離でき、また健康的な自己主張の練習にもなります。

 

「自分自身との対人関係」は、外的な対人関係(二者関係)でコミュニケーションへの取り組みを始めるための大前提としていますよね。

なぜなら、自己内対話を経ずにコミュニケーションパターンの改善を試みても、期待通りの結果が得られないことがさまざまな研究で明らかになっているからです。

 

それだけでなく「二つの椅子の対話(エンプティ・チェア)」は、批判的な思考をなだめ、自己嫌悪についての内的な対話を変容させる強力な効果を持っているのです。

「二つの椅子の対話(エンプティ・チェア)」はどんな感じなのか、『エモーション・フォーカスト・セラピー入門』から引用してみます。

 

ある拒食症のクライエントは、両親から非常に愛され大切にされてきたにもかかわらず、見捨てられる恐怖という中核的不適応感情をもっていた。彼女は、重度の拒食症の原因がその中核的不適応感情にあることに戸惑っていた。

空の椅子の作業によって、母親に対する怒りと、それをあらわす恐怖が混じり合っていることが明らかとなった。怒りを表すことで、母親を失うことを怖れていたのである。

この若い女性はまた、みずからの自己中断にうまく気づけるようになっていき、「セラピストの話を聞いちゃダメ、だってもしあなたが回復したら、お母さんはいなくなっちゃうのよ」といった発言をすることもあった。

彼女は12歳のときに拒食症を発症したが、これは、両親の口論の途中にある言葉をふいに聞いてしまったことと同時に起こったことが明らかとなった。その言葉を聞いて、彼女は母親が死ぬか出て行ってしまうと信じ込むようになった。彼女は、それを防ぐために何かを始めたことをはっきりと思い出した。

空の椅子の作業では、両親の口論が家族や彼女の幸せに悪影響を与えたのだと、両親に対する怒りを表した。

それから彼女は、両親から独立した。大人としての役割を見出す作業に取り組みはじめるようになった。

グリーンバーグ『エモーション・フォーカスト・セラピー入門』金剛出版

上記の患者さんは、母親の注目を自分のほうに引きつけようとする過剰適応の悪循環にはまり、拒食症を発症したようです。

 

フォナギーらは、摂食障害群では成人アタッチメント面接(AAI)の下位評定である「親の理想化」得点が高いことを報告しています。

「理想化」とは、『意味記憶レベルでは理想化された抽象的な描写をするものの、それを裏づけるエピソード記憶が語られない(具体的な記憶の想起不能など)という語りの特徴である。アタッチメントにまつわる記憶や感情の活性化を避けようとする最小化方略の現れといえる』と考えられています。(北川恵「アタッチメントと病理・障害」in 桜井みゆき・遠藤利彦『アタッチメント——生涯にわたる絆——』pp.245-275, ミネルヴァ書房)

上記の患者さんも「二つの椅子の対話(エンプティ・チェア)」の中で、発症のきっかけとなった出来事(エピソード記憶)を想起し、そして母親に対して抱いていた潜在的な怒りを自覚し、表現することができて、自立という発達課題に取り組み始めたようですね。

 

このように、思春期から青年期では「二者関係」「集団との関係」の固有性の土台として、「自分自身との対人関係」にもとづくアイデンティティ(自我同一性)の確立と自立に取り組んでいくことが摂食障害の治療課題になるということですよね。

過食症・むちゃ食い症の治療をご希望の方は『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』と『摂食障害から回復するための8つの秘訣』をお読みになり、治療を申し込んでくださいね。

 

院長