摂食障害からの回復に必要な自分自身への信頼感の築き方

三田こころの健康クリニック新宿の〔専門外来〕に通院中の方はご存じと思いますが、「摂食障害(むちゃ食い、食べ吐き)の対人関係療法による治療」に入る前に必ず読んでいただく本の1冊として挙げている『8つの秘訣』には、注意して取り組む必要がある箇所が2カ所あります。

 

その1つは、摂食障害の部分と健康な部分の対話(あるいは歪んだ思考との対話)と、魂の部分に「餌を与える」こと(2匹のオオカミの闘い)ですね。
このことについては『インナーチャイルドとインナーマザーの和解と統合』や『摂食障害や愛着のデーモンと向き合う』で説明しましたよね。

もう1つが、今回解説する「感情に名前をつける」ことです。

 

私たちの個人的な体験からも、クライエントさんたちとの取り組みからも、また脳に関する新しい研究からも言えるのですが、気持ちに気づいてそれについて話すと、そうした気持ちをより上手にコントロールし、調整し、そのままにして、対処しやすくなるのです。

気持ちを言葉で表現する方法は、何を感じているのかがわかりにくい時や、逆に気持ちに圧倒されてしまっているときに効果的です。

とても簡単に言えば、気持ちを言葉で表すと、脳の左半球(言語モード)と右半球(感情モード)がつながって統合されるのです。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

乱れた食行動で悩む女性たち(摂食障害の患者さんたち)は、思考(左脳)優位になっている人が多いですから、言葉での解釈に囚われやすくなっています。(『トラウマ反応に向き合うために感情と取り組む』も参照してみてくださいね。)

ですから、感情と取り組むときは、感情を身体反応として「感じる」ことから始めるのです。

 

感情に名前をつけるのも、感情に圧倒されない方法のひとつです。

なんだかわからないイヤな感じに「こわさ」というふうに名前をつければ、その大きさはどのぐらい?それはどれぐらい強い?……など、外から観察できるものになります。

得体の知れない恐怖の中にいるではなく、自分はきちんとここにいて、「こわさ」を眺めることができるのです。

日笠『「感情」とつながる方法—フォーカシングがくれるヒント』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

感じた感情に名前をつけて、大きさとか強さを感じるプロセスは、「主観的(自覚的)障害単位尺度(SUD)」といって、不安障害の患者さんでは不安階層表などで取り組んでもらったり、対人関係・社会リズム療法を応用したセルフ・モニタリングのツールとして行動記録票で記入してもらったりしていますよね。

 

「感情に名前をつける」に取り組むときに注意したほうがいいこととは、エピソードや考え対応した気持ちを整理していくときに、感情に名前をつけることで思考(左脳)が活性化され、その「名前」が現実のように感じられてしまうことがある、ということです。

 

「私は悲しくてたまらない!」と、あなたが言ったとしたら、まるで自分の全存在が悲しみにのみこまれてしまったような感じになるでしょう。

日笠『「感情」とつながる方法—フォーカシングがくれるヒント』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

感情や情動につけた名前(解釈・考え)によって、あたかもそれが事実のように感じられてしまうこと(認知的フュージョン状態)を、専門外来では「吊り橋理論」を使って説明したりしてますよね。

自己観察(セルフモニタリング)が苦手な人や思考(左脳)優位の人では、出来事や状況、対人関係によって引き起こされた感情や情動に名前をつける(解釈する)ことによって、「脳内劇場」が活性化されて現実から離れてしまい、思考(脳内劇場)の中に没入してしまう傾向があるのです。

8つの秘訣』の《「太っている気がする」は本当に気持ち?(p.136〜137)》では、「「太っている気」は実際の体重や体格とはまったく関係がなく、むしろ不安や周囲からの評価、居心地の悪さが入り混じった思考と関係していることがわかります」と説明されていますよね。

 

この隘路から抜け出す方法はいくつかあります。

「私は○○を△△と感じている」と「私」を主語にした“I”メッセージに変えて思考と距離を取る方法、状況と思考(解釈)を区別する状況分析、そして感情につけた名前を「身体で確かめる(腑に落ちる)」やり方などです。

 

自分が感じている気持ちを言葉にしようとするときに、たとえば「わくわく」という名前でしっくりするか、そうではなくて「おどおど」なのか、あるいは両方がまじっているのか、それは身体の感覚でしか確かめられません。

頭では「うれしい」という言葉が浮かんでいるけれど、その言葉を「身体に戻して」確かめてみたら、なんだか喉が詰まっているように感じる、ということもあります。

——この喉の詰まった感じは何かな?うれしいけど緊張している?自信がない?実はうれしいのではなく、別の仕事を期待していた?うーん違うかな、新しい仕事で確かめたいことがあるけど、今そんなことを聞いたらどう思われるか不安?

こうやって確かめていくと、どこかで「腑に落ちる」感覚が訪れます。
「そうそう、それそれ!」と身体が言う感じです。喉の詰まりがスッと楽になることもあるでしょうし、胃のあたりの塊が溶ける感じがするかもしれません。

日笠『「感情」とつながる方法—フォーカシングがくれるヒント』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

「身体で確かめる(腑に落ちる)」取り組み方は、『8つの秘訣』の「感情とは、自分の思考に身体が反応して引き起こされるものである(p.146 〜147)」に詳しく解説してありますし、ソマティック・セラピーとして解説されている「身体感覚をしっかりと認識し、それを調整できるようになる方法(フォーカシング)」と密接な関連があるのです。

身体の中に起きる情動に「感情の名前」をつけようがつけまいが、身体感覚は方向を指し示してくれています。それに従うことが「自分自身への信頼感」ですよね。

 

あらゆる身体の反応は、自分が生きるため、次に何が必要かを訴えています。
ですから、その訴えが満たされると消滅します。たとえば、空腹感は、食事をすれば消えます。

では、怒りはどうでしょう?
———なんだか腹が立つ!理不尽だ!こんなのはイヤだ!
こんな反応が、身体のあちこちでむらむらと湧き上がってきたとします。

当の相手に言いに行くことで、スッキリするかもしれません。
または、誰かに話して「それは確かにひどいよ」と理解してもらえたことで、怒りの気持ちがしゅーっとしずまる場合もあります。
あるいは、「そうか……私はあの人にそこまで腹を立てていたんだ」と気づいたり、「だって、傷ついたよね」と認めただけで、こわばった塊がすーっと溶けていくこともあるのです。

日笠『「感情」とつながる方法—フォーカシングがくれるヒント』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

怒りを解消するには、過食でなだめたり麻痺させたりする、嘔吐でなかったことにする、リストカットをしてスッキリしたりホッとしたりする、ムシャクシャして暴言を吐くなどの方法も、一時的な情動調整としては効果があるかのように思えるかもしれません。

しかし、これらの一時的な情動調整方略は、感情のニーズを拾ってないために長期的に見ると破たんに結び付く(悪循環を生み出す)やり方なのです。

 

自分の主張を通し相手が自分に合わせてくれたり、相手になだめてもらうやり方も効果がある場合もあるのですが、感情がす〜っと解消しないのであれば、身体感覚では腑に落ちていないのかもしれませんね。(「攻撃的アサーション」や「自虐的アサーション」になっているのかもしれません。。。)

対人関係の中で感情を表現する前には、まず自分の中で何かに気づいたり、納得したり、落ち着けたりして解決の方向が腑に落ちてから、その体験を表現する(話を聞いてもらう)必要があるのですよね。
(Akoさんの『摂食障害が教えてくれること』の「大切な人」を参照してみてくださいね。)

 

院長