摂食障害からの回復には心の姿勢を明確にすることが大切

摂食障害はコミュニケーション不全が問題なのか』で説明したように、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法では、対人関係を「3つの文脈」として理解します。

【対人(二者)関係】あるいは【集団との関係】の土台となるのが、【自分自身との関係】です。

 

対人関係療法では、【人の心の仕組みと動き方を知る(気持ちのつかまえ方・コミュニケーションの練習)】【トラブルにならない言い方を身につける(怒りや不安の対処法)】を通して、【自分の選択に自覚と責任を持つ(自分の人生は自分が主人公)】という「行動主体(プロセスとしての自己)」を培っていきますよね。

 

自分の感情となかなかつながりを持てない女性はたくさんいます。
そして彼女たちは、自分の日記の中身が食べ物に関することばかりだと気づきます。
しかし、「何を感じているのかわからない」とか「混乱している」とだけでも、心の状態を知ろうとして何かを書き続けていれば、ゆくゆくは自分の感情を自覚できるようになります。
「どう感じているのだろう?」と聞けば聞くほど、より簡単に、はっきりと正確に感情を特定することができるようになります。
物語の女性が発見したように、目標を達成する唯一の方法は山を登り続けることでした。同様に、何度も何度も「食べる直前に何を感じていたのだろう?」と自問し続けることでしか、自覚は生まれません。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

ある患者さんは『8つの秘訣』の「練習:書き出してみよう」のすべてに取り組んでみたものの、過食がおさまらない、とおっしゃっていました。皆さんの中にも、そういう方がいらっしゃるかもしれませんね。

ノートを見せてもらうと患者さんが書いていたのは、気持ちではなく考え、それも熟考せずに思いついた表面的な考えだけを記録されていて、「感じる」というプロセスがすっぽりと抜け落ちていたのです。

患者さんに聞いてみると、日本語の「思う」「感じる」に、「考える」と「身体感覚や気持ちを感じる」の2つがあることを知らなかった、とおっしゃっていました。

 

摂食障害の患者さんは、「内省する(自分の心を振り返る)ことが苦手」で、「感情に対して直面化・言語化することが難し」く、また「思考を現実と捉えてしまう」、などの特徴があります。

摂食障害から回復するために自分自身の心と向き合い、心を心で感じてみるときに、「心の姿勢」を理解することが大切です。(『自分自身との関係を改善する心の姿勢とは?』参照)

三田こころの健康クリニック新宿では、【好奇心寛大さ受容愛情(英語の頭文字をとってCOAL)】と説明していますよね。

 

日記は、無意識下の情報を意識下に持ってくるための作業ですので、最初は強い抵抗を感じるかもしれません。
自分の行動を見つめることで、恐れや辛さ、困難を感じてしまうときには、つい見て見ぬふりをしてしまうものです。
抵抗は決して「悪い」ものではありませんし、抵抗しているからといって私たちが「怠け者」だとか「頑固な人」なわけではありません。抵抗に出くわしたときというのは、これまた乱れた食行動の根底にある問題を見つけるチャンスなのです。

自分を叱りつけたり非難したりするのではなく、好奇心をもって、「自分が食べた物や感じたことを書きたくないのはなぜだろう?」「自分が食べ物に関して行っていることに注意を向けるのを邪魔しているのは何だろう?」「感じないようにしている感情はあるだろうか?」「何を一番怖がっているのだろう?」と自問してください
真実に近づくことで感じる恐怖を落ち着かせるためには、物語に出てきた女性が虎に対してしたように、自分に向かって優しく励ますような口調で話しかけなければなりません。
そしてじっと座って、自分の声に耳を傾けてください。
優しく好奇心を持って質問すれば、私たちの内なる賢い女性が必ず答えてくれます。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

COALのマインドの枠組み(心の姿勢)で自己理解を行う態度は、変幻自在な自己把握の方法を生み出すことができます。

さらにCOALのマインドは、「自動操縦状態(マインドレスネス)」の対概念としてエレン・ランガーが定義した、【マインドフルな心の姿勢(マインドフルネス)】でもあるのです。

 

エレン・ランガーの【マインドフルな心の姿勢(マインドフルネス)】は、【現在に積極的に関わりながら、新しいことに気づき(差違への注意深さ)、文脈に対して敏感になっているような、柔軟な心の状態(多様な視点のアウェアネス)】とされています。

また同時にCOALのマインドは、「自らの思考・感情・感覚に気づいていること」「人類共通といった見方」「自分への優しさ」というクリスティーン・ネフの【セルフ・コンパッション】でもあるのです。

そして、この心の姿勢こそが、「摂食障害の部分」と「健康な部分」の闘いを終わらせ(和解し)、「摂食障害の部分」をもう一度「健康な部分」に統合するために必要不可欠なのです。

 

日記をつけることで、克服できないように思われる問題をも克服できるスキルと発達させることができます。

(中略)

それと同じように、摂食障害を治そうと決めた女性も、打ちひしがれそうになったときでもあきらめず、根気強く隠れた感情を探し続け、真実に近づくことに抵抗してしまう自分にも忍耐強く接し、一番恐ろしい感情ですら手なずけるために自分に優しく接しなければなりません。
日記を書く中で歩む、自分の考えや感情を批判することなく日々追跡し続けるというプロセスこそが、あなたの切望する癒しを与えてくれる虎の髭、つまり内なる真実という特効薬を手に入れる方法なのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

三田こころの健康クリニック新宿で取り組んでもらっている「状況分析(出来事・解釈・感情・行動・結果・期待)」で、感情に対して「触れつつ巻き込まれず感情と一緒にいる」こと、つまり「“今この瞬間”との柔軟な接触」を強調していますよね。

 

身体の中にある気持ちを認識し、表現して、自分自身から区別できるようになると、気持ちに支配されなくなり、過剰に反応しないですむようになります8つの秘訣

心の中で、あるいは思考に身体が反応して生じた感情は、どんなに大きく感じられたとしても、心を超えることはなく、さらに自分自身を超えることはあり得ないのです。

 

ノートに実際に書き出すことで、自分の考えや気持ちが整理され自分についてよくわかるようになり、何かのきっかけであふれ出てくる圧倒されそうな感情にも流されることなく、その気持ちを上手に扱えるようになります。
強い感情を呼び起こす状況についてノートに書くと、感情の強さがやわらぐことがわかっています。
たとえ誰に見せるわけでなくても、書くだけで効果があるのです。

コスティン他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

ジャーナリングに取り組むことで、思考や感情の中に没入してしまっている自分自身をセルフモニタリングし、ジャッジメントを手放して、心を見わたす(メンタライジング)するカメラの視点(観察者としての自己)を培っていくことが、「自分自身との関係」を改善していくために大切なプロセスとなりますよね。

 

院長