摂食障害からの回復と自分に対する情動調律

夏前からダイエットに取り組んでいたり、ダイエットがエスカレートしてしまった思春期・青年期の女性たちは、秋になると食欲の暴走という身体からの反撃に驚いてしまいます。

それまでコントロールできているように感じていた自分の身体が、自分を攻撃するかのように「食べること」を要求してくるので、自分の身体が敵になってしまったかのように感じてしまいます。

 

思春期・青年期の摂食障害の娘さんをお持ちの親御さんの面接をしていると、『モーズレイ・モデルによる家族のための摂食障害こころのケア』の「情動知能(エモーショナル・インテリジェンス)」がよくわからなかったと話されることがあります。

「お子さんが赤ちゃんの時に、お母さんがやってきたことなんですよ」と、「共鳴」「内省(リフレクト)」「照らし返し(ミラーリング)」の「情動調律(アチューンメント)」を絵に書いて説明すると、「なぁ〜んだ、そうだったんですね」と体感的に理解されます。

赤ちゃんは、快・不快(苦痛)などを生理的な刺激(外受容感覚)や内臓感覚(内受容感覚)など身体感覚として体験し、手足をばたつかせたり泣いたりして、非言語的に伝えようとします。

お母さんは、赤ちゃんの非言語的メッセージをあたかも自分自身の身体感覚であるかのように直感的に共鳴します。

そして、オムツが濡れたのかしら?おっぱいが欲しいのかしら?眠いのかしら?と、赤ちゃんの中で何が起こっているのかを内省(リフレクト)します。

そして、「あらあら、お腹が空いちゃったのね、おっぱいあげましょうね」と声をかけてあやしますよね(ミラーリング)

 

このような「情動調律(アチューンメント)」によって、赤ちゃんは自分の身体的な苦痛が徐々に低下し、親がミラーリングしてくれた体験を内在化し、「自分の体験の表象(ジオラマ)」として理解できるようになります。

このようにして「身体感覚を伴う情動」と「自己状態の表象」がつながって、「自分自身の調律」となっていくのです。

 

これまで歩んできた道をそのままたどり続けたのでは、人生の願いは決して叶えられないと気がつきました。

人々も、食べ物も、気持ちも、人生そのものも、避けて遠くへ押しやるのではなくて、受け止めて抱きとめられるようにならないといけないと気づきました。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

摂食障害から回復するプロセスは、親(養育者)が自分に向けてくれた「共鳴」「内省(リフレクト)」「照らし返し(ミラーリング)」の「情動調律(アチューンメント)」を自分自身でできるようになるということなのです。

三田こころの健康クリニックの専門外来で行っている過食症(食べ吐き)・むちゃ食い症の対人関係療法による治療では、このプロセスを「自分自身との対人関係」と呼んでいますよね。

「自分自身との対人関係」つまり、自分の中で起きるさまざまな情動反応とのつながりを回復するプロセスは、自分自身との非言語的なコミュニケーション(共鳴)から取り組みますよね。
(Akoさんの『摂食障害が教えてくれること』を参照してみてくださいね)

 

フォーカシングという心理技法を生み出したユージン・ジェンドリンはカウンセリングを受ける中で「変化するクライエント」と、いつまでたっても「変わらないクライエント」とは、一体どこが違うのかを研究しました。

変化が訪れたクライエントは、カウンセラーとのやり取りの中で、こんなふうに言い淀む瞬間があったのです。
「こういう感じかな?……いや、ちょっと違う……うーん、もっと何か……」
そうやって自分の中を探りながら、すぐには言葉にならないものを確かめようとしているのです。

一方、変わらないクライエントは、こうした行きつ戻りつの時間が無く、聞かれた事には明快に答え、すらすら話し続けていました。
つまり、頭のレベルにとどまっていて、「身体で確かめる」ことをしていないということです。

日笠『「感情」とつながる方法—フォーカシングがくれるヒント』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

気持ちや身体感覚を、過食を使って感じないようにしたり、嘔吐を使って無視したりなかったことにしていると、「○○しなくちゃ!」のべき思考や、「良い/悪い」の白黒思考など、思考優位となってしまいますよね。

頭のレベル(思考優位)になると、思考に縛られた窮屈な生き方になってしまったり、満たされなさが蓄積して、ますます過食や嘔吐などの感情回避方略を使わざるを得なくなり、悪循環が生まれてしまいます。

乱れた食行動の悪循環から抜け出すために、感情や身体感覚を感じることから始めるのです。

 

私たちは現代社会の生活の中で、早く答えを出すこと、物事をはっきり明確にすることを訓練されています。
けれどときには、答えを急がず一拍おいて、「この選択は私の感覚にぴったりする?」「これで納得いく?」「ここに見えている道は自分にとって本物?」と確かめることが大切です。

自分の中に生じたあいまいな反応、よくわからない感覚を切り捨てずに、そこにどんな意味があるのか、探ってみる時間が必要なのです。
沈黙の中にこそ、次への智恵が隠されているからです。

日笠『「感情」とつながる方法—フォーカシングがくれるヒント』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

最初は、ボディスキャンやマインドフルネス瞑想などの方法を使って、まず「感じてみること」です。そしてその感覚を内省(リフレクト)してみるのです。それから自分に対して語りかけてみて(ミラーリング)、「腑に落ちる」かどうかを確かめるプロセスに取り組むのです

 

悲しみを受け容れつつ、それに圧倒されないためには、自分の身体の中で「悲しみ」の場所を特定して、「私の胸の底あたりに、悲しみがある」のように言ってみるとよいのです。

それを観察して「凍った河のような悲しみだ」と描写することもできるかもしれないし、「引き裂かれるみたいに悲しいんだね」と、自分でその悲しみに向かって声をかけることもできます。

それを観察する自分、話しかける自分は、悲しみの中にどっぷり浸かっているのではなく、悲しみの傍らで、安全にしていられるのです。

日笠『「感情」とつながる方法—フォーカシングがくれるヒント』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

三田こころの健康クリニックの専門外来で、感情に圧倒されずに「触れつつ、巻き込まれない(一緒にいる)」と説明しているのはこのようなことなのです。そしてこの方法は、「セルフ・コンパッション」でもあり、また「自分が自分自身のアタッチメント対象になる」ということでもあるのですよ。

 

院長