愛着トラウマと摂食障害

アタッチメント・システムとは、「個体がある危機的状況に接し、あるいはまた、そうした危機を予知し、恐れや不安の情動が強く喚起された時に、特定の他個体への近接を通して、習慣的な安全の感覚(felt security)を回復・維持しようとする傾性」と定義されています。(遠藤「アタッチメント理論の基本的枠組み」 in 桜井・遠藤『アタッチメント——生涯にわたる絆』ミネルヴァ書房)

 

生まれてから思春期までのアタッチメント行動は、動物一般に共通する身体的、物理的な接近であるのに対して、思春期以降のアタッチメント行動は、言語的・心理的な接近、すなわち、悩みを打ち明けて相談し、共感を求める行動が中心となります。(林「アタッチメントと思春期臨床」 in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房)

 

乱れた食行動で悩む女性たちが心の奥で希求している「認めて欲しい」という承認欲求をアタッチメント行動とみると、乱れた食行動で悩む女性たちの生き方が垣間見えてきます。

 

相手に対する恨みや不満、怒りの感情には、その裏に必ず相手に対する期待が隠れている。

おそらくその女性のアディクトは、子どもの頃、母親に褒めてもらいたくて、気を利かせて積極的に家事を手伝っていたのであろう。

そして、どんなに家事を頑張っても、母親の愛情はなぜかいつも弟のほうにばかり向けられていると確信した時、その怒りは抑圧され、もっと家事を手伝って、もっと学校で優秀な成績を収めて、なんとか母親の注目を自分のほうに引きつけようとする過剰適応の悪循環にはまっていったのであろう。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

認めてもらえない恨みや不満、怒りが言葉や態度に表出されていたとしても、本人が意識するかしないかに関わらず、その裏には何倍もの「認めて欲しい」期待が隠れているのです。

 

ですから、摂食障害の対人関係療法による治療では、表出された「対人関係の役割をめぐる不和」ではなく、「心理的孤立(対人関係の欠如:評価への過敏性)」に焦点づける必要がありそうですよね。

 

アディクト本人が心理的に孤立せざるをえないような生活状況が偶然発生し、さらに孤立と過剰適応が進行するような条件が不運にもいくつも重なったからこそアディクションを発症したのである。

何の予備知識もない家族がそのようなアディクト本人の心理的過程を理解できなくても当然であり、意図せずして本人の心理的孤立と過剰適応を悪化させてしまうような関わりを続けてしまうことこそが、家族が学び克服しなければならない課題なのである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

アタッチメントは関係特異的ですから、親が「カンガルー(感情が強すぎて支配しすぎる)」「サイ(理屈っぽく温かみが少ない)」「ダチョウ(感情をほとんど見せない)」「クラゲ(感情的になりすぎる)」のどのタイプかによって、子どものアタッチメント・スタイルがAタイプ寄り(回避型)になるかCタイプ寄り(アンビヴァレント型)になるか、あるいはAタイプとCタイプが混在したタイプになるかが決まってきます。

 

またアタッチメント・スタイルは対人関係の雛形(テンプレート)として使われますから、対人学習が十分でない状況では、他者との間で似たような対人関係パターンが繰り返されることも多いのです。

 

しばしば、職場での人間関係とは、幼い頃に育てられた家庭内の人間関係を反映している。

上司は親、同僚はきょうだい、と頭の中で置き換えたうえで(精神分析の用語を遣えば「転移」を念頭に置いたうえで)、職場の状況をアディクト本人の視点から追体験してみよう。

子どもの頃、「頑張っても関心を寄せてくれない母親」に対して抱いていた潜在的な怒りと同じような感情が、上司に対しても向けられた可能性がある。

直接怒りを上司にぶつけると上司から見捨てられる恐れがあるので、むしろ自分の本音の感情が漏れ出ないようにアルコールや睡眠薬で心に蓋をするようになった、という仮説を提示してみると、患者の反応によって、生きづらさをどの程度言い当てられているかわかるものである。

小林『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』日本評論社

 

「見捨てられ不安」の裏返しとしての遠ざかり行動や、自らの心に蓋をする(抑圧)は、境界性パーソナリティと見なすべき病態にも見えます。
実際、マスターソンが「遠ざかり境界性自己障害」という概念を記述しているようです。

 

「この患者は、他者に対して情緒的に何ら求めることがなく、有効に機能し、自分自身の欲求を自覚していないかのように見えます」とその特徴を挙げています。

私はこの概念(わかりやすく、『遠ざかりBPD』と呼びます)は日本において「アダルトチルドレン」が指す人々の特徴に極めて合致していると考えており、BPD(境界性パーソナリティ障害)とAC(アダルトチルドレン)が外傷育ちによって作り上げられる心理行動特徴という観点で表裏一体のものであると考える根拠の1つです。

崔『メンタライゼーションでガイドする外傷育ちの克服』星和書店

 

アタッチメント・スタイルで考えると、「遠ざかり境界性自己障害」は「対人恐怖的回避型」のようですよね。

 

素敵な物語』の「第6章 象徴——飢えをメタファーとしてとらえる」「第15章 下降——影と直面すること」で出てきた地下に済む鬼や影の姉妹は、「傷ついたインナー・チャイルド」と見なすことができます。

「自分の「愛着スタイル」を癒す」のではなく、癒すのは「アタッチメントの傷(愛着トラウマ)」であり、自分らしく生きられなかったインナー・チャイルドを認めること、それが「自分自身との関係を改善する」ことにつながるのですよね。

 

院長