対人関係療法をマインドフルネスの視点でみてみる

対人関係療法では、過食はストレスの表れと位置づけ、

☆ やせたい気持ちや過食嘔吐そのものについてはあまりじっくりと話し込まない。

というスタンスで、過食につながった出来事と気持ちを振り返り、症状との関連を見ていきますよね。

症状や悩み(ネガティブな思考)に焦点を当てて変化させようとしないやり方は、心理療法としてはちょっと特殊ですよね。

だからといって、ネガティブな認知に影響を及ぼさないわけではなく、認知に焦点を当てないにもかかわらず、認知が変化することが特徴です。

 

対人関係療法ではネガティブな認知を病気の症状と位置づけ、無理に抑えることなく、距離をおくマインドフルネスと同じような作用があるようです。

たとえば、認知行動療法では、ネガティブな認知を同定して修正することを試みますが、ネガティブな認知が減るわけではなく、「ネガティブな認知と距離をおけるようになることが重要な治療効果である」ことがわかってきました。

とくに

そのような状態から引き起こされると考えられる悪い結果が頭に浮かんでも、それは自分の想像によるものだと思う

という「破局的思考の緩和」がネガティブな認知から距離をおくスキルとされ、これは心理療法に共通する因子の中心で、抑うつだけでなく不安などでも最も影響していることがわかっています。

 

たとえば過食やむちゃ食いは、冒頭に書いたように、日常で蓄積したストレスに対する気分解消行動(感じないようにする)であり、嘔吐は、過食後の肥満恐怖への対処から始まりますが、しだいに吐く行為そのものが、ネガティブな感情や衝動を文字どおり「吐き出す」行為(なかったことにする)意味を持ちますよね。

過食をしないようになりたい、嘔吐を止めたいと考えるのがネガティブな認知に相当しますので、その考えから距離をおく、つまり、過食や嘔吐は悪いものという評価や判断を加えることなく距離をおくスキルが、逆説的に症状の低減に直結するのです。

 

対人関係療法による過食症や過食性障害の治療を導入するときに

○「過食を抑えつけないことが症状改善につながる」というパラダイム・シフトを受け容れられるかどうか
○自分のまわりの対人関係に関することに変化を起こす条件がそろっているか

などの「行動変容を促進する条件設定」や「自己強化などのモチベーション」が、対人関係療法の治療効果と相関するのは、このようなメカニズムがあるからなのです。

 

さて、過食につながるネガティブな認知には、

・他者の目を通して自分の身体を見ている
・社会文化的な価値観にもとづいて身体を評価している

があり、それらに対して「自分」という行動主体は、「これではいけない」「こんな自分はダメだ」という自己否定と焦燥を生み、ますます他者との関係で「嫌われたくない」「悪く思われたくない」といった心理を強め、過剰な気遣いと緊張の連続を引き起こし、対人関係療法でいうストレス(気疲れ)が蓄積し過食につながっていきますよね。

そのため、行動を変化させていく目的で、本を読んだり、治療者からの教示(位置づけ)や自己モニタリングに取り組むことで自己強化が起こり、これが動機づけ(モチベーション)となって自己調節行動が起きてくるのですが、『過食症の自己欺瞞に向き合う』で書いたように過食症では往々にして傍観者的なモニタリングになってしまい、行動変容につながらないこともよくあるのです。

 

ここで必要なのが、客観性や自己観察、受容性など、「能動的に注意を向ける」ことであり、マインドフルネスで重要な因子であるだけでなく、じつは「距離をおくスキル」の土台にもなっているのです。

ネガティブな感情や過食衝動を対象として見ることで、それらに気づきながら巻き込まれることのない注意集中訓練や、注意分割能力など注意の柔軟なコントロールによって、「否定的な思考から距離をおくスキル」が身についてきます。

対人関係療法でも

○ ますます体型が気になるようになってきた、ストレスが高まっているようなので、私の生活の中で何が起こっているのかを考えたい。
○ 過食がひどくなってきたので、何がストレスになっているのかを考えてみたい。

と対人関係に能動的に注意を向けることが、注意のコントロール(分割と集中)に相当し、症状やネガティブな感情と距離をおくスキルの土台になます。

それにより、

・ネガティブな刺激に対する扁桃核の活動が低下(不安の低減)する
・前頭前野背外側部の活動の上昇(認識機能の領域:扁桃体の働きを抑える)

などの効果があがることで、症状が緩和されていくと考えられます。
(『マインドフルネスの脳科学』『過食(むちゃ食い)や過食嘔吐の治療2』参照)

院長