嗜癖(クセ)になった食行動異常からの回復:衝動の波に乗る

物質使用障害(乱用と依存)の対人関係療法では、不十分な対人関係を埋め合わせるための試み、もしくは、すでに持っている対人スキルが損なわれている、みとなし、

・薬物をやめる必要性を受け入れる
・衝動性をコントロールする
・どういう状況で薬物を使用するか確認する

というテーマで治療が行われました。
しかし、標準的な比較対照の治療に比べ脱落率の高さもあり、効果がなかったと報告されています。

これらはリラプス・プリベンションとも共通するのですが、「重要な他者との関係は、自分自身との関係が反映されている」ので、自分自身との調和と培っていくことが優先課題になりますよね。

 

同じことが「嗜癖(クセ)になった過食あるいは過食嘔吐」にも言えて、ウィルフリィが書いているように

自分の気持ちに注意してはっきりつかめるようになる、つまり自分自身との関係を改善し、他人との関係を改善できれば、ネガティブな気持ちをコントロールするために食べ物を利用しなくてすむようになるでしょう。
自分の気持ちがうまく扱え、他人との関係もうまくいくようになるほど、過食はへっていくでしょう。
ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社

「自分自身との関係(イントラ・パーソナル)」と「他者との関係(インター・パーソナル:対人関係)」の双方を改善していく必要があるとウィルフリィは強調していますよね。

 

さて「嗜癖(クセ)になった過食あるいは過食嘔吐」や「過食(むちゃ食い)やダラダラ食いをともなう排出性障害」では、誰しも感じる痛みや苦しさを過食や過食嘔吐という手段で注意をそらし(気散じ)、回避しようとすることで二次的な苦痛を生み出してしまうことを『嗜癖(クセ)になった過食:計画的過食(とりあえず過食)とは』でみてきましたよね。

過食や過食嘔吐は感覚次元での回避であるため、短期的なメリットしか得られないので長続きせず、さらなる「渇望」を生み出します。

そしてその行動が反復されることでさらに強化されるため、過食や過食嘔吐ができなかったり、ガマンしたりすると物足りなくなって、さらに痛みをともなう状況を作りだし、ますます回避行動に埋没してしまうのです。

 

過食や過食嘔吐は感じないようにする・帳消しにする方策ですが、逆に、食べ物を拒否したり、制限(ダイエット)したりなど不快感を伴う感覚へ回避する手段が使われる場合もあります。

これらの感覚への回避は、基本的に感覚的心地よさへの渇望と、心地悪さへの忌避が根底にあり、自分に脅威を与えない程度の苦痛で気をそらそうとしてその方法にしがみつく(執着する)反応は、強迫的・衝動的・嗜癖的なパターンを生み出していますよね。

摂食障害のとても残念な側面は、精神的にいろいろ「狭くする」病気だと言うことです。
当事者の方は、一日中、食事のカロリーや体重や、あるいは勉強や仕事の失敗のことを考え、他の事が考えられなくなってしまいます。
西園マーハ文「推薦の言葉」 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

ですから、そのような行動パターンを止めて自分の心を観たとき、その行動を誘発した最初のきっかけが引き起こした痛みにようやく気づくことができるのです。

これは過食や過食嘔吐をガマンすることではなく、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』にある
「衝動の波に乗る」ということです。

多くの人が「衝動の波に乗る」ことを、衝動の大きさに突き動かされて行動することと誤読されるのですが、そうではなくて、衝動に巻き込まれるのではなく、触れてはいるけれども巻き込まれていない状態で観るということです。
(この時の心の使い方は三田こころの健康クリニックで説明していますよね)

 

三田こころの健康クリニックでの対人関係療法でも

過食を始めたり、食べることをコントロールできないと感じたりしたときは、いったんストップして自問することです。
「何が起こっているのだろう。このきっかけになった対人関係上の問題は何だろう。
それによって自分はどんな気持ちになっているのだろう。
この状況を何とかするためには、どうしたらよいのだろう。」
はじめは難しいかもしれません。

動揺する状況を心にとめるようにし、そのときに起こっているものや気持ちに注目してみてください。
そのときに起こっているものに、です。
これがうまくできるようになると、自分の悩みを隠すために食べ物を利用しなくてすむようになってくるでしょう。
ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社

を強調するのは、過食や過食嘔吐という無自覚な体験の回避なのですが、同時に、やめたいと思っている食行動異常の強迫的・衝動的・嗜癖的なパターンから抜け出す、この上ないチャンスにもなりうるからなのです。

1日に何度も過食や過食嘔吐をしているのであれば、それだけ、過食や過食嘔吐から抜け出すチャンスがあるのです。

その都度、自分の内側に目を向けること(内省:リフレクション)です。
「はじめは難しい」その試みを後押しするため、三田こころの健康クリニックではマインドフルネスを教えているんですよ。

院長