何が過食衝動・嘔吐衝動の引き金になるのか

Akoさんがブログ『摂食障害が教えてくれること』の中で「嬉しい過食」について書いてくださっていました。

嬉しい過食」について知らなかった、初めて聞いたという人も多いかもしれませんね。

 

なぜなら多くの本には、過食や過食・嘔吐を引き起こすのはストレス(ストレッサー)、あるいはネガティブな気持ちなどの「心理的苦痛(ストレス反応)」であると説明してあるからです。

もちろん、いろんな出来事をストレスだと認識してネガティブな気持ちになり、身体と心にストレス反応が起きると、その心の動きをなだめるための過食やなかったことにする自己誘発嘔吐が起きやすいということはあります。

 

アディクションの臨床では、渇望が生じるきっかけ(引き金)を外的なものと内的なものに分けて考えます。

「外的な引き金」については『過食衝動の波に乗る準備』で「何もすることがない暇な時間、これまで物質をよく使用していた曜日や時間帯は、引き金に遭遇しやすい「危険な時間」」として触れました。

このような「外的な引き金(環境刺激)」と別に、「乱れた食行動(摂食障害)」を引き起こすのは、感情刺激による「内的な引き金」が関わっていることが多いですよね。

 

内的引き金(感情刺激)

 

 

 

 

上記はアディクションを引き起こしやすい「内的な引き金(感情刺激)」ですが、「乱れた食行動(摂食障害)」も同じような感情刺激で過食衝動(あるいは嘔吐衝動)のスイッチが入りやすいですよね。

このリストの中に「多幸感」という項目があります。
これが「嬉しい過食(あるいは嬉しい嘔吐)」の引き金になるのです。
(Akoさんの『摂食障害が教えてくれること』の「対人関係療法 嬉しい過食」を参照して下さいね)

 

アルコールや薬物依存症の自助グループでは、しばしば「HALT(ハルト)に気をつけろ」という警句が使われる。
これはアルコールや薬物への渇望が高まりやすい状況のことであり、それぞれungry(空腹)、ngry(怒り)、onely(孤独)、ired(疲労)の頭文字を示している。

(中略)

なお、近年はこのappyと言い換える場合がある。

川地「HALTって何?——渇望が高まる危険な状況」in『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

多幸感が引き金になる「嬉しい過食(あるいは嬉しい嘔吐)」だけでなく、「疲労」や「疲労感」も過食あるいは嘔吐のきっかけになることも多いようです。また、怒りだけでなく不安感(Anxiety)も過食のきっかけになりますよね。

「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」は、「一日中イヤな気持ちで過ごして、人に気を遣いすぎて疲れたから過食したくなっちゃうのかも?」と感じていらっしゃいます。

 

「疲労や疲労感は、身体のどこで感じますか?」「疲労や疲労感と名づけた身体感覚はどんな感じですか?」とたずねると、多くの「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」は、「アタマですか?」「アタマが疲れたと言ってます」と返事をされます。

 

これらの「アレキシサイミア(感情を自覚することが苦手)」「アレキシソミア身体感覚を感じるのが苦手)」という特徴で、心の動きや身体感覚を「抱えておくことができない(感情不耐・気分不耐)」ため「食べる」「嘔吐する」という行動をつかって、麻痺させたり感じないようにしたりする「乱れた食行動(摂食障害)」の中核的な病理のようです。

 

ただし、多くの場合、こうした「内的な引き金」を自覚している人は少ない。なぜならば、アディクションの問題を抱える人たちは、そうした煩わしい感情に蓋をしたり、それをアルコールや薬物で紛らわしてしまうからである。

大切なのは、いま自分がどのような感情であるかに気づき、それにうまく対処していくことである。
もし感情に気づきにくい人ならば、感情に伴って生じる胃痛や体のこわばりといった身体的なサインに注目するのもよい。

網干「渇望が生じるきっかけ——「引き金」について」in『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

これまでも『身体のシグナルを感情として読み解く』『感情を感じてみるということ』『摂食障害の月経前症候群と月(身体)のリズム』『身体感覚とアタッチメントと摂食障害からの回復』などで、身体感覚をどう感じればいいかについて説明したことがありましたよね。

 

気持ち(感情)や身体感覚(情動)をしっかりと感じることができるようになることは、「乱れた食行動(摂食障害)」から回復するために必要不可欠な〔自己受容〕を高めていく最初のステップになります。

 

「ドライドランク」とはA.A.(アルコホリック・アノニマス)で用いられる用語のひとつであり、「しらふの酔っぱらい」や「空酔い」などと訳されることが多い。
飲んでいないけれども酔っぱらっているような状態、すなわち、断酒はしているけれども、心のありようや日々の行動が飲んでいたときと同じような状態を示している。

依存症からの「回復」は、単に「依存していた物質をやめる」だけで達成されるものではない。
回復とは、お酒や薬物などを必要とするそれまでの不器用な生き方を手放して、新しい自分を生き直すという、実に長いプロセスなのである。

今村「ドライドランクと依存症的行動」in『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

ドライドランクは「乱れた食行動(摂食障害)」から回復する10の段階(『8つの秘訣』p.18〜19)のうち「7. 摂食障害行動はやめられるけど、摂食障害思考が頭から離れない」に相当するようですね。

8. 行動からも思考からも解放されている時が多いが、常にというわけではない」「9. 行動や思考から解放されている」の段階に進むためには、「それまでの不器用な生き方を手放して、新しい自分を生き直す」プロセスを通る必要があります。
(『摂食障害が教えてくれること』の「最近のワタシ」や「バイバイ、摂食障害」を参照してみてくださいね。)

 

そのプロセスでは「心の闇に住む影の姉妹」と向き合い、「イナンナ(それまでの私)のように、旅を続けるには、服、つまり、こうあるべきだとして外の世界に見せている自分を脱ぎ捨てなければならない」、つまりそれまでの生き方を手放すプロセス(イナンナ(乱れた食行動に悩む私)の死)をたどる必要があるということですよね。(『摂食障害から回復する旅の準備を始める』参照)

 

院長