代償行為をやめることと自分と他者の心の状態に気づくこと

「過食(むちゃ食い)」は、空虚感や孤独感、あるいは無力感や劣等感など、さまざまな気持ちをなだめ、麻痺させるために「食べる」という行動を使った非機能的な対処法です。

 

北九州医療刑務所の瀧井先生は、「私は、摂食障害は本質的には「心の病気」であり、生きていく上で避けがたく生じる心の負担や不調を心で受け止めることができず、身体面や行動面に回避しているものであると考えています。そして、そのような回避と摂食障害や心の成長不全は悪循環をなし、患者はそこから抜け出せなくなっているのです」とおっしゃっています。(『摂食障害症状の役割と意味を理解する』参照)

 

また「過食(むちゃ食い)」後の「自己誘発嘔吐(食べ吐き)」は、過食をなかったことにする「非機能的な代償行為」です。
8つの秘訣(p.210〜215)に「代償行為」として、強迫的運動、体重測定、儀式的な食事(食べ物を細かく刻むことやチューイング)、断食など、さまざまな「回復を妨げる行動」が挙げてあります(P.218)

過食(むちゃ食い)や過食嘔吐(食べ吐き)など乱れた食行動から回復するためには、まず、これらの「非機能的な代償行為」や「回復を妨げる行動」をやめることに取り組むことから始める必要があるのです。
(Akoさんの「摂食障害が教えてくれること」の「吐かないとこうなる」「行動依存」などを参照してみてくださいね。)

多くの人が「自己誘発嘔吐をやめると太るのではないか?」と気になるところですよね。

「自己誘発嘔吐をやめると、体重は増えるのか?、減るのか?、あるいは変わらないのか?」、12月のエントリーで説明をしますから、楽しみにしていてくださいね。

 

摂食障害を利用して気持ちに対処してみても、よく解釈したとしても嫌な気持ちを一時的に追っ払っているだけです。根底にある本当の気持ちにまったく注意を払わないでいれば、それらは何度でも問題として表面化してきます。

どんな気持ちに対しても「改善する」ために衝動にまかせて食べ物にエネルギーを注いだり、また食べることを避けたりしているかぎり、結局はその試みは失敗に終わるでしょう。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

「根底にある本当の気持ち」に対して、摂食障害特有の思考パターンが連鎖的に悪影響を及ぼします。

過食や過食嘔吐など乱れた食行動から回復するためには、「内的な自動思考とそれに伴う感情」をその場でつかまえられるようになることがとても重要なポイントになるのです。

 

回復に向けて考え方を変えてバランスを取るための第一歩は、思考が歪んでいるときに自分で気づくことができるようになることです。

その歪んだ考え方がどのようにして自分を傷つけているのかということを理解して、もっとバランスの取れた考え方を見つけられると、気持ちが変わり、人生でも人間関係でもより良い選択がしやすくなるでしょう。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

自動思考は、慣れ親しんだ普段の体験の仕方のままでは、なかなか自動思考だということに気づけません。

自動思考であることに気づかなければ、自動思考は現実であるかのように感じられてしまい(心的等価モード)、自動思考に巻き込まれてしまいますよね。
※心的等価モード:自分の心にあるものをそのまま外的現実であると捉え、精神状態(内的現実)と外的現実を区別することができない状態。

 

批判的な思考の群れ」は、さまざまなネガティブな感情を引き起こします。しかし、ネガティブな情動や感情という現象が起きたとしても、それを引き起こした「考え」は神経細胞のお喋りによって心の中にわき起こったものにすぎませんよね。

「考え(神経細胞のお喋り)」は現実ではない(実体はない)》ことをはっきりと認識できれば、「考え=現実」という心的等価モード(認知的フュージョンの状態)に巻き込まれずにすむようになるのです。
※認知的フュージョン:現実に即していないにもかかわらず、機能していない思い込みを認識できず、かつ訂正もできない状態。

つまり、《情動や感情という反応は起きるが、考えは現実ではない》ことを深く理解出来れば、考えを修正したり、考え自体を追い払う必要もなくなるのです。

 

ですから、自動思考を含む自分の考えや、自動思考に反応した身体感覚(情動や感情)に気づくセルフモニタリングを根気強く習慣づけていくことが、乱れた食行動からの回復の第一歩になるのです。

これを過食症の対人関係療法による治療では「自分との関係を改善する(心の状態の変化についての気づき)」と呼んでいますよね。

 

8つの秘訣』に、「自動思考は自分だけでなく他者をも傷つける」ことにグエンさんが気づいたエピソードがありますよね(p.127〜129)

自分を卑下して相手はOKとする(結果的には相手を不快にさせてしまう)コミュニケーションパターンは、「自虐的アサーション」と呼ばれます。

 

あるとき、友人が聞いているところで、レポートの成績がBだったことについて自分を批判していました。私は自分のことを頭が悪く、文章が下手だと嘆いていました。
でも同時に、友人がもらったBについては何の問題もなく十分な成績で、もちろん彼女の価値をいささかも下げるものではないと、わざわざ念を押していました。

友人は、傷ついて気分を害しているように見えましたが、やがてなぜ私が二人をこのように区別するのかと尋ねました。

私は、自分が有能で、もっと良いレポートを書くことができ、彼女よりも高い水準で評価されるべきだとでも考えていたのでしょうか。私は、自分の考え方に含まれているこの矛盾には気がついておらず、なんと答えてよいのかわかりませんでした。
理解してもらっていないように感じると同時に、とても強い罪の意識も感じましたが、何よりも混乱しました。

友人にはもちろん理解できるはずもなく、その時の私自身さえ気がついていなかったことは、自分は周りの人たちよりも何でもきちんとこなさなければならないと私が実際に考えていた点です。それは、私が自分を周りの人たちよりも優れていると考えていたからではありません。そうではなくて、どこか私の奥底にある、言い表すことも説明する事もできない何かの不完全さを埋め合わせるためでした。

やがて気がつくようになりましたが、「完璧でなければならない」や「ダメな人間だ」といった私の信念は、周囲の人に対してもまるで私が彼らを評価しているかのような悪影響を及ぼしただけでなく、私の中でも自分には価値がなく恥ずかしいという感じをいつまでも生み出し続けました。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

グエンさんは、友人(彼女)が「傷ついて気分を害しているように見え」たのですが、その理由がわかりませんでした。

それだけでなく、グエンさんは友人(彼女)に「理解してもらっていないように感じ」たのです。

 

もし友人(彼女)がグエンさんに「頭が悪くて文章が下手よね」と、グエンさんが期待していた通りの理解を示したらどうでしょう?
グエンさんは、理解してもらったと安心するどころか、逆に、あぁ!やっぱり・・・と絶望の淵に突き落とされた感じになってしまうでしょうね。

つまり、グエンさんは自分の心の中で何が起きているのかがわからなかっただけでなく、友人(彼女)の心の動きもわからず、混乱してしまったのです。

 

自分の「心の状態の変化についての気づき」が生まれると、自分の行為だけではなく他者の行為も、心理状態に基づいた意味のあるものとして理解することができるようになります。

他者も自分と同じような心の動きがあり、同じような体験をしていることがわかるようになります(他者視点取得)

 

他者との双方向性のコミュニケーションの土台は、まず自分の「心の状態の変化についての気づき」からスタートするのです。

対人関係療法によるむちゃ食いや食べ吐きの治療に取り組んでいくときには、まず「自分の心に対する気づき(自己志向)」、そして「他者の心の状態に対する気づき(協調性)」、この順番がすごく重要なのですよ。

 

院長