他の疾患との違いから過食症の本質を考える

過食(むちゃ食い)や過食嘔吐(食べ吐き)があるからといって、ただちに摂食障害、あるいは過食症と診断されるわけではありません。こう書くとビックリしますよね。

「食行動障害および摂食障害」という病態は、神経発達症群(知的能力障害、自閉症スペクトラム、注意欠如・多動性障害、トゥレット症など)、統合失調症スペクトラム障害、物質関連障害および嗜癖性症候群、双極性障害、抑うつ障害、睡眠-覚醒障害、不安症、強迫症、心的外傷およびストレス因関連障害群など、ほぼすべての精神科的疾患と併存することがあり得るのです。

「食行動障害および摂食障害」は、背景要因と発症要因、それから維持要因をきちんと見極めてからでないと、診断もそして適切な治療方針を立てることも難しいのです。
そのため、過食症の治療は専門家でないと難しいといわれるのです。

 

なぜ過食症になってしまうのでしょうか?

この質問に対する簡単な答えはありません。過食症は多元的な障害だからです。

文化、家族、性格、遺伝、生物学的要因、外傷体験など、さまざまなものが組み合わさって発症するのですが、これらに限定されるわけでもありません。
これらの要因のすべてが重要な役割を果たすと言われているものの、どれも単独では発症を予測することはできないのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

このブログでも時々名前を挙げている「排出性障害」や「夜間食行動異常症候群」などは「他の特定される食行動障害または摂食障害」に分類されます。

下記の引用では「その他のタイプの摂食障害や関連する問題」とされています。

 

その他のタイプの摂食障害や関連する問題には、夜食症候群、異食症、反芻性障害、幼児期摂食障害、オーソレキシア(「健康的」で「あるべき食事」に対する強迫観念)、身体醜形障害などがありますが、これらについては本書では言及しません。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

夜食症候群は、メタボリック症候群につながりやすい夜だけドカ食いと、睡眠時随伴症候群(寝ぼけ過食)とともに、「夜間食行動異常症候群」として分類されました。

また幼児期摂食障害は、もともと乳幼児期や小児期早期だけでなく、思春期や成人になってからも認められることから、「回避・制限性食物摂取障害」としてまとめられました。
(『「回避/制限性食物摂取障害」と子どもの摂食の障害』、東京都立小児総合医療センター心療内科「摂食障害の病型分類」を参照してください)

最近流行りの「オーソレキシア(選択的摂食の一種?)」と、上記に挙がっていない「排出性障害」は、「オーソレキシア」を強迫性、「排出性障害」を衝動性と考えると、「強迫-衝動スペクトラム」としてみることができるようです。(『衝動性と強迫性〜摂食障害との関係』参照)

 

二十年前には、その人の住む文化と機能不全な家庭が摂食障害の原因になるというのが一般的な考えでしたが、近年、遺伝がかなり重要な因子であることがわかってきました。
摂食障害になる人の危険因子の50%から80%が、遺伝的素因によるものとする専門家たちもいるほどです(Bulik, 2007)。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

過去には家族や親の育て方が原因と考えられていた摂食障害は、現在では遺伝的要因の関与が高いことがわかってきました。

摂食障害と育てられ方は関係するのか』で紹介したクルンプ(Klump)らの研究では、子どものうち(思春期前まで)は生育環境要因が関与し、思春期を過ぎると生育環境要因の関与が減り、個別環境要因(学校や交友関係など外の世界との関係)や遺伝的要因の関与が大きい(50〜80%)と報告されていることとも合致しますよね。

しかし、成人期の摂食障害の患者さんや治療者(?!)が、いまだに親に責任を押しつけて親を責めているという話を聞くと、暗澹たる気持ちになってしまいます。。。(自分が愛着障害だと思い込んでいる人も!)

 

拒食症患者さんと過食症患者さんには、体重や体型、食べてしまったものと食べてはいけないもので頭がいっぱいになっていることなど、類似点もあります。
両グループともに自分の中の空虚感が問題となっており、これは身体的、感情的、社会的、あるいはスピリチュアルな観点からとらえることができます。
両者ともに、耐えられそうもないと感じるような強い否定的な感情に対処するため、また、対人関係での葛藤、否定されること、失敗することへの恐れを無意識的に回避するため、食べ物をコントロールするという方法を用いるのです。
両者とも、食べ物を自己表現の一つとして使います。

しかしながら、過食症の人が、過食や代償行為から世界に向き合う勇気をもらっている一方で、拒食症の人は、食事を制限することで、自分をコントロールできているという感覚を得ています。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

自己志向と協調性を高め摂食障害から回復する』で、摂食障害(主に過食症)の維持要因は、「内省困難と感情言語化困難(アレキシサイミア)」、「感情体験の回避」、「ネガティブな自己評価」などの「個人的要因(自分自身との関係)」が根底にあり、それが、「対人関係の回避」、「他者の精神状態の認識困難」など、対人関係の問題として表れていることを説明しました。

これに「表情による感情表出も感情読み取りも困難」「状況の回避(責任転嫁や逃避)」に加え、環境要因(集団との関係)としての「集団への帰属意識の乏しさ」が加わったのが、拒食症の特徴です。

 

回復という点で重要なのは、健康的に自分自身を育めるやりかたで(飢餓状態にも過度の詰め込み状態にもならずに)適量の食べ物を食べて、自分を大切にし、そのことに前向きになれるということです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

クロニンジャーのパーソナリティ理論では、無自覚に外的環境に反応してしまう特徴(「気質」)の方が遺伝的影響を大きく受けるとされています。

環境や対人関係で学習され、意識的に自分の行動をコントロールしようとする「性格」は、「気質」に対して「意味づけ」を与えることで、環境に対して独特な適応の仕方を規定するとします。

 

クロニンジャー理論の「性格」は、「自己志向」「協調性」「自己超越」の3つの特徴からなり、「気質(≒遺伝的要因)」がどうであっても、ある程度、適応的は可能と考えます。

つまり、遺伝的要因の関与が大きいとしても、「健康的に自分自身を育めるやり方」で「自分を大切」にして前向きになれること、つまり「自己志向(自己の次元での成長)」が回復の鍵を握っているということですよね。

 

院長