メンタライジングとアタッチメント関係が摂食障害からの回復の土台になる

6月まで『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』から引用しながら、「嗜癖(アディクション)」と「摂食障害症状」の類似点について解説してきました。

嗜癖(アディクション)は「自己治癒的行動」として説明されることが多いですよね。
食行動障害でいえば「エモーショナル・イーティング」がそれに当たりますよね。

 

食欲不振症(食物摂取を制限すること)は、自分の身体に入ってくるものを統制することを含めて、統制を行おうとする努力です。
むちゃ食い(bingering)は、情緒的慰めを与えてくれるという点で嗜癖に似ています。
そして、むちゃ食いも排出(purging)も、情緒的苦痛からの強力な気晴らしを与えてくれ、同時に多少の統制感をもたらします。

(中略)

不幸なことに、物質乱用の場合と同様に、摂食障害行動のポジティヴな効果は長続きせず、その行動は最終的には統制を崩壊させます。

むちゃ食いは安堵感か解離的離脱をもたらしますが、むちゃ食いには罪悪感、恥意識、嫌悪、自己憎悪が伴い、今度はそれらを和らげるために排出を行わなければならなくなります。
排出は、そういうわけで一次的な安堵および統制が回復したという感覚をもたらしますが、排出の後には、まったく同じネガティヴな情動の連鎖が生じます。

このようにして、むちゃ食いと排出は、悪循環を繰り返すのです。
例えば、むちゃ食いから生じた罪悪感と恥意識を排出が緩和し、排出から生じた罪悪感と恥意識をむちゃ食いが緩和するといった具合です。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

生きづらさを何とかするため「過剰適応」し、その反動の「無力感」と他者に頼れない「心理的孤立」をなだめるための「単独行動」である「エモーショナル・イーティング」に頼り、繰り返してしまう悪循環を、多くの「乱れた食行動に悩む女性たち」は「クセ(嗜癖)になった」と感じてしまいますよね。

 

信頼障害の文脈で摂食障害症状を見てみると、「乱れた食行動(摂食障害行動)」の悪循環を断ち切るために「大切な相手に病気のことを伝える」ことが大切なように思えます。

しかし、『摂食障害の治療で取り組む「心の状態の変化についての気づき」』で書いたように、「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」は患者さんにとって最も本音が言いにくい人々であり、本音の感情を最初に正直に話す練習相手として不向きであるだけでなく、当たり前のことですが伝えただけでは摂食障害は治らないのです。

なぜなら、「乱れた食行動(摂食障害行動)」の背景にある「信頼障害」とは、「愛着(アタッチメント)関係の問題」と「メンタライジング不全」であり、「病気のことを伝える」ことやコミュニケーションは手段であって、摂食障害から回復するための目標ではないことに注意する必要があります。(註:「愛着関係の問題」とは「愛着障害」のことではありません。混同されませんように!)

 

物質乱用と同様に、拒食、むちゃ食い、排出は、情動的苦痛に対処するための非メンタライジング的方法であり、愛着関係の代理となりうるものです。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房(下線は筆者)

 

人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』にある「アディクションの治療の第一歩は、まずアルコールや薬物の使用やさまざまな衝動行為の背景にある一人ひとりのアディクト固有の感情に気づいてもらうこと」がメンタライジング(心で心を思うこと:内省)です。
見捨てられたくないから最も本音が言いにくい「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」に伝える前に、まず治療者との愛着(アタッチメント)関係の中で練習をして、それから「さまざまな他者に頼って感情を表出する練習」に進みますよね。

 

「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」の「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」とのアタッチメント関係は、〔対人恐怖的回避型〕と〔おそれ型〕が多いことを解説しました。(『回避型アタッチメントと摂食障害』参照)

 

〔おそれ型〕は、他者と親しくなることを不快に感じ、情緒的に親しい関係を求めているけれども、いざとなると他者を完全に信じることが難しく、他者とあまりに親しくなると自分が傷つくのではないかと心配するタイプです。

 

対人恐怖的回避型は、自分を適切に主張することが不得手で、社会的に不安定であることが特徴である。
また、人と親密になるのは快適ではないが、他者から認めてほしいという気持ちは強く、人との関係に没頭しやすい。
親密さを求めるが拒絶されることが怖いので、結果的に親しい関係を避けてしまうことになるタイプである。

安藤智子・遠藤利彦「青年期・成人期のアタッチメント」in 桜井みゆき・遠藤利彦『アタッチメント——生涯にわたる絆——』pp.127-173, ミネルヴァ書房

 

〔対人恐怖的回避型〕〔おそれ型〕の「乱れた食行動に悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」を、メンタライジングが不十分なまま「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」とのコミュニケーションに直面させると、〔アンビヴァレント型:とらわれ型〕に移行してしまうリスクがあるのです。

 

ちなみに、「関係尺度(RQ)」を用いて一般他者に対するアタッチメントスタイルを検討した研究では、日本人は〔安定型〕19%〔回避型〕7%〔アンビヴァレント型:とらわれ型〕47%〔おそれ型(未解決-無秩序型)〕29%と報告されています。

日本人にもっとも多い〔アンビヴァレント型:とらわれ型〕は、他者を自分より上位に置き、相手に合わせて自分の行動を制御するという他者依存的(あるいは他者中心的)な関係スタンスであり、日本文化の中での対人関係のあり方としては、むしろ適応的なアタッチメントスタイルと考えられています。

しかし一方で、〔アンビヴァレント型:とらわれ型〕は、自分が幸福感を感じられるかどうかを他者の受容に依存している、つまり、親密さを求めるものの不安が高いために「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」が自分が望むほど親しくしてくれないとか、自分を肯定的に評価してくれない、わかってくれない、などの憤懣を抱えるようになり、さまざまな「試し行動」でアタッチメントを確認するようになるのです。

 

「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」との関係性の問題について『如実知自心』で「愛着のパラドックス」として4回に分けて説明しました。

重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)への依存」、再保証を求める・強迫行為に参加させる・回避を手伝わせるなどの「巻き込み強迫」、「個人内感情調節と対人間(個人間)感情調節の違い」、「不安や恐れを伴う探索(エクスポージャー)の必要性」の4つです。

上記の4つのポイントが関係性(対人関係)に焦点を当てる場合の問題点だとずっと感じていました。過食症・むちゃ食い症の患者さんにとって最大限に有益な対人関係療法を提供するために、これらのポイントをいかに修正すればいいかついて、長年積み重ねた実践と臨床経験をエビデンスに基づいて解説しています。
興味を持たれた方はお読みになってみてくださいね。

 

また過食症・むちゃ食い症の治療をご希望の方は『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』と『摂食障害から回復するための8つの秘訣』をお読みになり、治療を申し込んでくださいね。

 

院長