「耐性領域」にとどまる方法

慈悲の実践の1つに「無財の七施」というのがあります。
やさしい眼差し、にこやかな表情、優しい言葉や声、やさしい雰囲気、心配り、席を譲る、自分の家を開放してもてなす、の7つです。
最後の2つは行動(することモード)での表現ですが、最初の5つは、状態としての表現(あることモード)が可能ですよね。

 

状態としての表現(あることモード)のデフォルト状態で「耐性領域」と呼ばれ、社会神経系が関与しています。
愛着の問題や、過食症から回復するときには、ニューロセプションのデフォルト状態である「耐性領域」を拡げていくという方法になるわけです。

 

認知が関与しない(無意識の)生理的反応であるニューロセプションは、理論的な思考で対処することはできません。
そのため、言葉を介した精神療法や心理療法では、それほど効果を上げられないのです。

無意識を表現する芸術療法や箱庭、ボディーワークのほうがニューロセプションにはアクセスしやすいのですが、受けとめてもらった感やスッキリ感はあるものの、変容のプロセスは患者さん、クライエントさんにゆだねられてしまいます。

とくに思春期から青年期にかけて「自己(アイデンティティ)」が誕生するプロセスでは、『愛着のボタンはリセットできる』で書いたように神経細胞同士の再結合が起きることがわかっており、自分は何者か?という自己同一視の課題に直面するなかで、意識化されなかった幼少期の「情動反応(感覚記憶)」が浮上しやすくなります。

 

無意識の生理的反応で情動を生み出すニューロセプションと、意味づけや評価という認知プロセスを経由した感情は、相互に影響しあって循環していますので、この2つのバランスがとれるような治療を考える必要があるのです。

とくに愛着の傷つきや、トラウマティック・ストレス体験がある人には、エピソード記憶の想起(フラッシュバック)や情動記憶の想起に対して、ニュートラルな刺激によって情報の再処理と統合を行う必要があります。

いくつかの方法で、過食症の患者さんや愛着の問題を抱えた患者さんに取り組んでもらったことがあるのですがポイントは3つありそうです。

1つは「思考の影響を減らすこと」。
つまり、これはこうだ、こうに違いないという意味づけや先入観、あるいは、…ねばならないというトップダウンの思考を減らし思考に反応した二次感情の影響を少なくすること。

2つ目は、「自分が他者に引き起こした反応や、逆に他者から影響を受けた自分の反応が、ニューロセプションによって起きた情動だと理解する自己回帰的な視点の確立」。

3つ目は、「感情や情動を身体感覚を通して知覚し、言葉や行動、態度で自覚を持って表現すること」。

上記の3つをつなぐのが、マインドフルネスではない瞑想のやり方です。
瞑想といっても静かに目を閉じて座って呼吸に意識を集中するとか、「私は息を吸っている/私は息を吐いている」などの頭の中のおしゃべりを気づきと間違うことではなく、さらに、此の世ならざる超越した世界を見ることでもありません。

 

愛着と社会神経系』で書いた「意識が適度な覚醒状態を保ち(clarity)」、「くつろぎ(openness)」「なにものにも囚われない(emptiness)」「耐性領域」で、外の世界や周囲の人に対して、柔軟にかつ冷静に意思疎通をすることができる「社会的関わり反応」の「耐性領域」にあることが瞑想なのです。

このニューロセプションの「耐性領域」にとどまることで、「神経の愛情コード(neuro love code) 」が活性化して冒頭に書いた「無財の七施」5つの状態が起きてくることが社会神経系の働きですよね。

 

さらに「耐性領域」は「内在化された安全基地」として作用し、自分自身を深く顧みて、思いやりと共感的理解をはぐくむことで、愛着スタイルを獲得安定型に修正し、過食症やむちゃ食い障害からの回復に直結するんですよ。

院長