葛藤に対する対人関係療法の効果

内因性の症例に対人関係療法を実践してみようというような時には、客観的に正当と思われる葛藤が彼らの中に現れてきたとき、彼らが自分を支えることができないまま気分変動を悪化させる可能性があり得ることを斟酌しておかなければならない。
「私的自己」に現れた感情を公共的な対話の場に引き上げ、そこで対人葛藤を抱きながら現実的解決を見つけ出していくまえに、内因的な変動に見舞われてしまう。
もちろん、内因的な変動を抑えつつそのような解決を自立的に行うことができるようになるまで見守ることができれば、対人関係療法的手法は、内因性の症例に対しても有効に働く可能性があるだろう。
津田均・著『気分障害は、いま』誠信書房

この本では「うつ病」などの内因性の気分障害は

気分障害を見るとき、「私的自己」と「公共的自己」が踵を接するところに注目することが重要であると著者は考えている。

と書かれており、この「私的自己」と「公共的自己」の関係は、

・「私的自己」のみにかかずらうならば公共に通じる活動への駆動を失う
・「公共的自己」のみが活動することを余儀なくされれば自己事態が枯渇、疲弊する

と対立項として考えられています。

 

しかし、著者の先生が書かれている「内因的な変動を抑えつつそのような解決を自立的に行うことができるようになるまで見守る」ということは、対人関係療法が準拠する「医学モデル」での「症状はさておき」と矛盾するあつかいになっていますよね。

 

そもそも、このような対人関係療法に対する誤解がどうして生じているのかというと、この本の著者の先生は、「対人関係療法」は対人葛藤の解決方法という先入観をお持ちなのかもしれませんね。

たとえば、「女性のメンタルヘルス誌」に掲載された内因性のうつ病のうち「産後うつ病」に関して、産後うつ病に対する対人関係療法による治療では、完全な回復もしくは、回復までの期間の短縮だけでなく、臨床的寛解期間が長くなることが認められています。

とくに、妊娠〜出産は身体的な変化と生活の変化が特徴で、赤ちゃんの父親(自分の配偶者)との関係だけでなく、母子関係(赤ちゃんとの関係)の障害(絆をつくることの難しさ)や、元家族との昔の不和の思い出が関わっていることが多いとされます。

このような「役割期待をめぐる不一致(不和)」が「産後うつ病」の発症に関わっているので、「対人関係療法は対人葛藤を解決する技法」と誤解されるのかもしれませんね。

 

しかし一方で、「Journal of Affective Disorder」の論文では、対人関係療法(IPT)および薬物療法は
うつ病治療のなかでも自殺念慮の軽減に特異的有効性を示すということが報告されていますから、「対人関係療法は対人葛藤を解決する技法」に限定されないことが理解出来ると思います。

 

対人関係療法で重視する「病者の役割」によって、「公共的自己」の社会的義務や責任の一部を免除し、
「私的自己」を治療に取り組む義務で置き換えるため、上記の書籍に書いてあるように、「公共的自己」と「私的自己」の葛藤によって内因的な気分の変動に巻き込まれてしまうということは起きないどころか、対人関係療法の「医学モデル」によって症状と人格は区別されるため葛藤しようがないのです。

 

さらに。
対人関係療法による治療では、上記の引用にあるように「解決を自立的に行うことができるようになるまで見守る」のではなく積極的に対人スキルを伸ばし、主体性を確立していくことで「回復までの期間の短縮」だけでなく、治療終結後も効果が伸び続けるのですよね。

そもそも。
対人関係療法がどのように作用するのか?についてはそれほどわかっていませんが、生物学的な知見からみた対人関係療法の効果について11月7日にエントリー予定の『ストレスと過食とアタッチメントの生物学的関連』に対人関係療法では

他者の協力を求めることで(アタッチメント希求行動・オキシトシン放出)
他者からの承認が得られると(報酬依存=ノルアドレナリン放出)
「クロニンジャーの「協調性」(オキシトシンが関与する愛着の修復)」を介して
安心感(自分との折りあい=セロトニンが関与)が得られ
過食の抑制(レプチン低下)や社会行動の促進(ドーパミン放出)

をもたらしているのではないかと考察しています。

 

なかなかよくならないうつ病や摂食障害で困っていらっしゃる方は参照してくださいね。

院長