自尊心から自己受容へ

適応とつながるような自己への肯定的な態度としては伝統的に自尊心が重視されてきた。
自尊心は、自己愛や収入や競争心と相関があるのに対して、自己への慈しみはそれらとの相関はみられなかった。
さらに、自己への慈しみは、自尊心の安定と関連がみられた。(Neff & Vonk 2009)
このように、これまで心理学で知られていた自尊心は、他者への優越や競争心など必ずしも適応的ではない要素も含んでいる。

杉浦「マインドフルネスの心理学的基礎」貝谷・熊野・越川 編著『マインドフルネス—基礎と臨床—』日本評論社

これまで多くの精神疾患からの回復に必要だと考えられてきた「自尊心」、つまり「自己肯定感(主体が自己対象を肯定すること)」は、他者との比較や自己に対する評価に基づく認知の仕方であり、「必ずしも適応的ではない」との一文を読んでかなりビックリしました。

 

折しも臨床精神医学という雑誌で「自己受容・肯定感と精神科臨床」の特集が組まれていましたので読んでみました。

「自己肯定感」という言葉で呼ばれているものの実相は、ていねいに仕分けしてみてみると、比較的「浅い自己肯定感」と、比較的「深い自己肯定感」とがある。またその中間レベルの自己肯定感がある。
したがって、「自己肯定感」という言葉を用いるときには、その言葉で指示しているものが、「どのレヴェルの自己肯定感」なのかを明確に意識して論じることが必要になるのである。

諸富祥彦「自己肯定感と自己受容」臨床精神医学 45(7): 869-875, 2016

 

質問紙調査による研究から生まれた概念である「自尊感情(自尊心)」は、「自分の良さを自分で評価し、自分の価値を自分で認識することができる」という「自己肯定感の認知的な側面」と書かれています。

 

さらに「自己肯定感」にはさまざまな側面があり、「自分には何かを成し遂げたり達成したりすることができる能力がある」行為達成能力的な側面の「自己効力感」や、「いわゆる自信といわれる、自分にはできることがある」能力的な側面である「自己有能感」、他者や社会とのつながりの中で「自分にも他者や社会のためできることがある」という対人的・対社会的側面である「自己有用感」などが分類されています。

 

「自尊感情(自尊心)」は比較や評価に基づく認知ですから、自分で良いと評価していたとしても、赤の他人の一言によって脆くも崩れ去ることがあるわけですし、身近な人がいくら肯定しても、なかなか受容できないこともありますよね。

自己肯定感を高めるため他者をリスペクトしたとしても、それは評価につながってしまうわけです。

自分自身に対して判断や批判をし続けている場合、それは隔絶や孤独の感情へとしかつながらない人工的な境界や区別を作ることになる。

ネフ『セルフ・コンパッション』金剛出版

(「褒めても褒めても自己肯定感が上がらない理由とは?」も参照)

 

一方、「比較的深めの自己肯定感」は、「自分では、だめなところ、欠点だと思っていたところも、違った視点から見るといいところになる、と気づく気持ち」という視点の転換が起きることによって生じる自己肯定感です。

自己肯定できない患者さんたちを、代わりに肯定し、その「ありのまま」を受け入れながら、一緒に前向きな変化を起こしていく

横山「子どもの自己肯定感を高める発達障害支援」臨床精神医学 45(7): 883-887, 2016

治療者が行う自己肯定感の一時的な肩代わり(リフレーミング)が、この「比較的深めの自己肯定感」に相当するようです。

 

これらに対して、「深い自己肯定感」は実存的自己肯定感で、「自分の醜いところも、ただそのまま、あるがままに認めることができる自己受容に伴って生じる肯定的感覚」とされています。

つまり、肯定するのでもなく、否定するのでもなく、少し離れたところからそれがあることを認め、ただ眺めているような姿勢であり、マインドフルネスに通じるところもあると書かれています。

 

 

「自己受容」は「価値や目的の創造」「価値や目的に沿った行動」とともに、クロニンジャーの「自己志向性」を高めるときに取り組む課題で、自分自身との関係を改善し調和をもたらすことですよね。

三田こころの健康クリニックではセルフ・コンパッションのやり方で以下のことを教えています。

・自らの思考・感情・感覚に気づいていること(マインドフルネス)
・人類共通といった見方(生きている限り誰しも感じる感情を苦悩に変えない)
・自分への親切さ(セルフ・コンパッション)

 

この「自分自身との関係の調和(自己受容)」が、うつ状態や、過食症/むちゃ食い障害からの回復や不安定型愛着スタイルを獲得安定型に修復するときの最も深い土台となり、自分以外の他者(他者や集団)との関係の改善が起きてくる、つまり協調性が高まるのですよね。

 

院長