サイコロジカル・マインドと自己モニタリング

対人関係療法では、病気の症状を軽減するためにどのように現在の対人関係領域を調整し 、より効果的なソーシャル・サポートを築くためにどのような対人コミュニケーションスキルを身につけていけばいいか、ということを考えながら進めていきますよね。

 

病気の症状というのは、一種の「非言語的コミュニケーション」という見方も出来ます。しかし、正確に理解されることはまずないコミュニケーションパターンだと言えます。特に、摂食障害の場合の症状は、本人が望んでいるのと逆の状況を作ってしまうことが多いのです。
たとえば、「親に干渉されるのが嫌だ」という気持ちから拒食症になった人の場合、やせることを心配する親はさらに過干渉になります。また、「自分のいうことをちゃんと聞いてほしい」という気持ちから過食症になった人の場合、過食嘔吐という奇妙な症状のおかげで、「過食もがまんできないようなわがままな子のいうことは聞けない」と、ますます意見を尊重してもらえなくなるのです。
摂食障害の治療とは、症状の力を借りずに言葉で自己表現出来るようにすることであるといっても過言ではないでしょう。こうすることによって、「自尊心」も高まりますし、やせることへのしがみつきも軽くなってくるのです。
水島広子・著『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

上記のように、患者さん自身が病気であるがゆえのコミュニケーションのパターンが(これを「症状トーク」と呼んでいますよね)、他者の非生産的な反応を誘発することが多いということを認識することが、対人関係療法による治療の第一歩になりますよね。(『治療の土台作り』参照)

 

そのためには、「自分自身を知る」ということと、もう一つ「状況を客観視する能力」が必要になります。それが「サイコロジカル・マインド」の一側面で、『心理療法の有効性』で精神療法による治療効果の項目で挙げた

・人間関係を保てる能力
・心理学的心性(サイコロジカル・マインド)の程度
・症状の重篤性と数
・治療意欲
・中心的な問題を指摘する能力

のうち「中心的な問題を指摘する能力」に相当します。

またこれは洞察力や課題対応力、他者と協働する力、様々な社会的スキルなど、人格や「器」「内面性」など、まとまりを持った統一体としての主体というサイコロジカル・マインドでもあるのです。

 

三田こころの健康クリニックに対人関係療法による治療を申し込まれた人の中には、問診票を記入できないという人もいらっしゃいます。

たとえば、ストレスを感じた出来事について具体的な場面描写が出来ずに、他人の視線が気になったなど漠然とした記述にとどまったり、拒食や過食になった頃の出来事を憶えていないとか、他者の描写や、他者の視点について相手の立場で考えてみることができないなど、自分自身を客観視する能力に問題がある方もいらっしゃるのです。

 

この「自分自身を客観視する(自己モニタリング)能力」は、「リフレクティブ・ファンクション(顧みる能力)」や「メンタライゼーション(心を理解する能力)」のことですよね。
(『愛着(アタッチメント)システムは生育環境の影響も受けやすい』『アタッチメントの問題1』参照)

自尊心が低下していたり、気分不耐がある場合、思い込みが強い場合は、自己モニタリングが困難になりますが、さまざまな要因で「自分自身を客観視する能力」に問題がある場合、出来事と症状に焦点を当てた対人関係療法の治療焦点を設定することが困難なことがあります。

 

たとえば気分変調性障害(慢性うつ病)では、うつ病に伴う「絶望感」「無力感」により内的世界が崩壊し、認知—情動知覚が「前操作期」まで退行するため、体験や具体的なやりとりについてまとまりのある出来事として述べることが難しくなりますし、また生来的あるいはある時点での心の発達過程に問題のある人にとっても他者の視点や自分自身を客観視した描写は困難ですよね。

 

対人関係療法による適合性(向き・不向き)を判断するために、治療意欲、洞察力、知性、自我機能などを精神状態、愛着スタイル、コミュニケーションパターンからアセスメントしていくのが「診療申し込み票(問診票)」の目的であり、さらに対人関係療法をスタートしたのちの抵抗(回避)や依存など治療における問題を予測し最小化するために、対人関係療法をアレンジする方向を示してくれるのが「診療申し込み票(問診票)」アセスメントであると言えますよね。

 

過食症など摂食障害で悩んでいらっしゃる方は、もう治らない、仕方ないと諦めるのではなく、治療を受けるために自分のことを振り返ってみるという一時的なストレスを乗り越え、その先にある新しい人生に踏み出す、ほんのちょっとに勇気を持っていただきたいと願っています。

院長