その人に合った精神療法のあり方

ほとんど考慮されていないことですが、精神療法は「患者の現実に合わせて」行うもので、同じ診断であっても患者さんの特性によって最も適した治療法は異なるはずですよね。

風邪のタイプによって「黄色の△△」みたいに種類が違うように、同じ診断名だからということで同じ治療法になるわけではなく、タイプの違いにより治療法も治療焦点も変わってきますよね。

 

ところが、対人関係療法勉強会でのケースを見ていると、初心者の中には双極性障害だから「対人関係-社会リズム療法」、気分変調性障害だから「治療による役割の変化」と機械的に当てはめてしまう人が多いようですし、患者さんの対人関係療法への治療適合性を考えずに導入し、状態が悪くなったり、中断したりというケースもかなりあるようです。

同じようなことが認知行動療法にも当てはまり、摂食障害だからと「食事日記」を導入され、取り組んでいることで満足し洞察に結びつかなかったり、逆に「食事日記」の記載が強迫的になって苦しくなったりと、患者の現実を無視して治療法を押しつけることが起きているようです。

 

精神療法を行う場合は、当然のことですが、その疾患について詳しいことと精神療法に精通していることが大前提なのですが、治療法を知っていることと、その治療法を行うことができることは大きな違いで、ガイドブックで見たことがあるだけの旅先と実際に旅行したことがある経験との違いのようなものです。

 

三田こころの健康クリニックは対人関係療法による治療を専門にしているため、摂食障害だから対人関係療法を、とか家族関係に葛藤があるから対人関係療法を、など、いろんな医療機関から患者さんが紹介されてきます。

受診された患者さんにお話を聞いてみると、水島先生の本を紹介されたという方はマシな方で、
対人関係療法という治療法があることは言われたけど、なぜ対人関係療法なのか、対人関係療法ではどういう治療をするのかの説明はなかった、ということがほとんどです。

この点について岡野憲一郎が鋭い指摘をされていました。

精神療法家はいくつかの基礎的な技法を網羅的に習得していなくてはならなくなる。なぜなら精神療法家が患者の訴えを聞き、どのような治療的アプローチや技法がその患者に合っているのかを知るためには、実際にそれを試して感触を得てもらうことがどうしても必要になる場合が多いからだ。
(中略)
しかしある程度○○療法の経験を持っている療法家の場合は、それについてさらに具体的に説明することができ、またその治療状況によっては実際にそれを患者に試みる事さえも可能だろう。
(中略)
少なくとも理想的なトリアージ(選別、格付け)に近い機能を発揮する療法家は、さまざまな異なる治療法について知っていて、自分が熟知する種類の治療とは異なるいくつかの治療手段も有効である可能性を考慮できなくてはならないのだ。
「力動的な精神療法はどこに向かうのか」岡野憲一郎, 精神医療:73, 40-47, 2014(一部改変)

 

つまり、精神療法を処方するときには、ある程度の精神療法の治療経験があることが前提であり、やったこともない精神療法は処方できないということですよね。

 

逆に三田こころの健康クリニックで、強迫性障害や習慣および衝動の障害と診断した患者さんに認知行動療法や行動療法を紹介するときには、どういう治療のやりかたで進めていくのかについて説明したり、体験してもらったりしていますよね。

しかしながら、診断が為されていなかったり、紛い物が横行したり、やってもいない精神療法の保険点数を請求したり、近頃の精神科医療の劣悪化には目を覆うばかりです。

<閑話休題>

対人関係療法ではキーパーソン(病気の原因となっている人物)は誰かに注目して、9-12ヶ月未満で症状の改善と再発予防を行う。

対人関係療法は、身近にいる重要な人との現在の関係に焦点を当て、対人関係における態度やコミュニケーションのあり方を考えていくものです。

など、まったくのデタラメが記載してある医療機関のHPがあります。

 

対人関係療法では、病気の原因についての仮説は立てず、家族やパートナーなど気持ちに影響を与える「重要な他者」にサポーターになってもらい、症状に焦点を当てず、出来事と感情、症状との関連をみながら、「自分の気持ちを指標にして現実(とくに対人関係領域)に変化を起こす」というやり方を、12〜20回(約4〜6ヶ月)で取り組んでいきます。

 

対人関係療法の治療焦点は、コミュニケーションのあり方を考えていくという、対人スキルトレーニングやコミュニケーション・トレーニングではなく、病気の発症因子や維持因子を変化させるというところに対人関係療法の本質(エッセンス)があるのです。

上記の医療機関のように、対人関係療法のトレーニングを受けたことのない医師が、いい加減なやり方を対人関係療法と称しているところもかなり増えていますので注意して下さいね。

 

『精神医療』73号「[特集]精神療法はどこへ向かうのか」に、武蔵野病院の江口重幸先生が次の一節を書かれていました。

際限なく保険請求しようとする側も、本来精神療法とはまったく無縁のはずの精神保健指定医の資格の有無で差別化を押し付けようとする側も、いずれの側も、精神療法の根幹を掘り崩し、腐食させてしまう行為を行っているように思えてならない。これこそが現在、精神療法の置かれた「文化的窮状」である。
(中略)
誰も精神療法の内容には触れず、経済的側面のみが自制なく強調され、それに対してさまざまなルールで規制していくという、21世紀になってさらに顕在化しつつある精神療法をめぐる文化的布置なのかもしれない。

実は、事態はかなり深刻で、ある医療機関では、対人関係療法のトレーニングを受けていない心理士に一般的なカウンセリングを、対人関係療法を称してやらせているようです。
そういう経験をした患者さんが何人も三田こころの健康クリニックを受診されています。

 

このように、ちょっと違うみたいと感じられた患者さんはいい方で、多くの患者さんにとって、ホンモノとニセモノの区別は難しく、いまだに紛い物の対人関係療法を受けている方もいらっしゃるはずです。

 

対人関係療法を受けようと思っていらっしゃる方は、治療者の対人関係療法のトレーニング歴を確認したり、水島先生のクリニックに問い合わせたりして、貴重な人生の時間とお金をムダにされないことを祈っています。

 

そして、せめてこのブログをお読みになっている方だけは本物の精神療法、対人関係療法を受けて欲しいそう願うばかりです。

院長