そもそも。

認知療法の創始者として知られるベックは、うつ病の病前性格を自律型パーソナリティと社会依存型パーソナリティに大別して述べています。

自律型パーソナリティは男性に多く、高い目標をもち、自律的・行動的に振る舞うことにセルフエスティームの基礎を置いています。

一方、女性多いパーソナリティとして、社会依存型パーソナリティを挙げ、このパーソナリティは安定した対人関係を求めることに主眼を置き、拒絶されることをなにより怖れ、受容することに喜びを見いだす傾向があると述べています。

いずれにしても女性はストレスを自分の心のうちに溜め込み、自責的となる傾向が指摘されています。

 

たとえば。

職場のストレス要因と性差をみてみると、男性では、職場の人間関係の問題、仕事の質の問題、仕事の量の問題、職場の将来性の問題が拮抗していたのに対して、女性では職場の人間関係の問題を選んだものが最も多く、他の要因を凌駕していました。

職業性ストレス要因には性差があり、女性にとっては職場の対人関係が、男性にとっては仕事の量的質的負荷が、大きなストレス要因となっている事がうかがわれますよね。

これらからうつ病の発症を考えてみると、男性に多い自律型パーソナリティでは「他者をあてにできず、頼れなかった。」のに対し、女性は「他者を頼って拒絶されるのが怖くて、頼れなかった。」ことになり、その治療的対応は異なってきますよね。

 

対人依存と学習性無力感が女性のうつ病の有病率とは有意な相関を示さなかったとの報告もありますが、「他者からの情緒的サポートをどのように確保するか」ということが重要であるという結果もあります。

 

つまり。

「対人関係」が、働く女性のみならず、女性全般のためのうつ病予防を、あるいはストレス対策を考える上でのキーコンセプトとなる可能性がありますよね。

 

さて。

うつ病の対人関係療法です。

対人関係療法では精神病理は対人関係のみに「よって」起こると想定しているわけではなく、うつ病の性質に関しても多元的見地をとっています。
ただ、症状は通常対人関係「の中で」起こるものであり、発症、治療への反応、転帰は、うつ病患者と重要な他者との間の人間関係に影響を受けると考えます。

 

たとえば、対人関係療法では、焦点を当てる対人関係について四つの問題領域から一つか二つを選んで取り組んでいきます。

対人関係療法で用いられる技法の一つにコミュニケーション分析があります。

コミュニケーション分析は、より効率的なコミュニケーションが出来るように援助することを目的として、コミュニケーション方法を検討するものです。

対人関係上の問題を話し合うような場合には、出来るだけ直接的な言語的コミュニケーションを選ぶことが誤解を防ぐためにも有用ですよね。

 

なお、日本人は衝突よりも沈黙を選びたがる傾向がありますが、「The cruelest lies are often told in silence.(いちばん残酷な嘘は、しばしば沈黙という形をとる。)」という名言があるように、沈黙は完全にコミュニケーションを打ち切るもので、破壊的な可能性をもつものだと認識する必要がありますよね。
コミュニケーションに注目することは、特に女性のうつ病の場合には重要ですよね。
日本では、自己主張しない女性像が好まれるという社会背景もあり、問題のあるコミュニケーションを日常的に行っているヒトも多いですよね。

 

たとえば。
ある日の空港での出来事。
飛行機の出発時間に遅れて地上係員に案内されていた人が「何で俺の過失ばっかり言うの 」「俺の過失よりも、コンピュータだって間違えるでしょう 」と逆ギレしてました。
このコトバの使い方って、非常にマズイコミュニケーションですよね。

また、男女の性別役割分業がいまだに根強い日本では、そもそも理解し合うためのコミュニケーションという可能性を考えていない人もいるらしいです。

 

相手に何かを伝えるということは、慣れないうちは、怖いと感じるかもしれませんよね。
言わずにガマンするとモヤモヤとしたストレスが溜まりますし、言うと、相手が傷ついたりイヤな気持ちになるのでは?と最初は思ってしまいますよね。

治療では3ステップコミュニケーションの間にあと2つから3つのプロセスが入りますが、よほど人の話を聞かない相手でない限り、日常的に使うなら、この3ステップで十分でしょう。

 

そもそも。

コミュニケーションは言葉の贈り物。
コトバは気持ちの贈り物。
そういう考えでコミュニケーションを試して下さいね。

『対人関係療法でなおす うつ病』からの抜粋です。

対人関係は、ストレスの一番のもとになります。 対人関係療法の四つの問題領域は、 まさにそれを示しているものでしょう。 でも、同時に、対人関係は病気を治す上で一番の力を発揮します。

対人関係療法を行っていて思うのは、「途中から急に楽になる治療法だ」ということです。
たしかに最初は、病気について説明したり、対人関係上の新しい試みをやってもらったりと、いろいろエネルギーを使います。

でも途中からは、こちらがお願いしてもいないような領域で、患者さんや周りの方がどんどん進歩をしていってくださるのです。
お願いしていない領域で進歩が起こる、というのは、まさに治療がうまくいっている証拠なのですが、対人関係療法を行っているとひんぱんに体験されることです。

私が常々思うのは、人は、病気の人も、周囲の人も、十分な力を持っており、ただその使い方を教えてあげるだけで十分なのだ、ということです。
もう少し踏み込んで言えば、本来の力を発揮できなくしている誤解を解いてあげるだけで十分だということです。

そのためには、病気についての正確な知識を持つことでもいいですし、正しい知識に基づいて、今までよりも少しだけ勇気を出して、対人関係上のやり取りをしていただければ、そこに存在する大きな力と可能性に気づくことでしょう。

ちなみに。

認知行動分析システム精神療法(CBASP)という治療法もありますが、慢性的なうつ病に対する効果は、薬物療法ではSSRIが最も高く心理療法では対人関係療法が最も高い事が知られています。
また、心理療法より薬物療法の方が効果は高いものの、薬物療法に心理療法を組み合わせた方がさらに効果が上がることが知られています。

実際、慢性的なうつ病=気分変調症は対人関係療法が得意とする領域ですし、対人関係療法の治療構造とか、用いる技法が気分変調症に対して治癒的な作用を持ってることは何人もの患者さんの治療をしてきて実感しています。

 

長い間、自分に自信がなかったり、上手くいかないと感じていらっしゃる方は、一度、三田こころの健康クリニック相談してみて下さいね。