摂食障害(拒食症と過食症)とは

過激なダイエットをしているからといって摂食障害とは限りませんし、やけ食いや大食いと過食症の区別がつきにくいなど、摂食障害は異常であるかどうかがわかりにくい「心の病気」です。

食行動異常があるからといって必ずしも摂食障害と診断されるわけではなく、強迫性障害や統合失調症など食行動異常をきたす他の疾患を慎重に鑑別していく必要があるため、食行動障害や摂食障害の診断や治療は、専門の治療機関でないと難しいと言われています。

 

病気とは、本人にとって基本的に辛いものであり、症状を自分でコントロール出来ないという意味です。「私はやせたいだけ」という言葉とは裏腹に、その実体は本人にとっても決して心地よいものではありません。

摂食障害は、体重が標準体重の80%(アメリカ精神医学会の基準では85%)あるかどうかによって、「神経性やせ症(いわゆる「拒食症」)」と「神経性過食症(いわゆる「過食症」)」に分けられます。

拒食症はさらに、「制限型」(食べないでやせていくタイプ)と「むちゃ食い/排泄型」(過食嘔吐・下剤乱用などを伴うタイプ)に分けられます。

過食症は、嘔吐や下剤乱用をともなうタイプ(排出型)と伴わないタイプ(非排出型)に分けられていましたが、DSM-5では、嘔吐や下剤乱用などの代償行為があるものを「過食症」、自己誘発嘔吐など代償行為がないものを「過食性障害(いわゆる「むちゃ食い症」)」と分類されました。

 

また、拒食症や過食症の診断基準をすべて満たすわけではない「特定不能の摂食障害」と呼ばれている状態もあります。
「特定不能の摂食障害」には、体重は標準体重の80%未満だけれども生理はある人(生理の項目以外は拒食症の診断基準を満たす人)、過食の頻度が週に2回以下とか短期間しか持続していない人など、診断項目をすべて満たすわけではない「拒食症」「過食症」「むちゃ食い症」が含まれます。

 

最近増えているのが、拒食症に似ているけれども体重や体型へのこだわりが強くない「回避・制限性食物摂取障害」、普通の食事や大食(主観的過食)の後に体重を減らすために自己誘発嘔吐(大量の水分摂取が特徴)を1日に何度も繰り返す、神経異性過食症に間違われることの多い「排出性障害」です。多くの場合、拒食症や過食症と誤診されています。

また、その他に、食物を噛んでは飲み込まずに吐き出す行為(チューイング)だけを長期間続けている人、朝昼はほとんど食べずに夜だけドカ食いしたり、あるいは睡眠時に過食したりする「夜間食行動異常症候群」などが含まれます。

なお、睡眠時(意識がある場合もない場合もある)の過食は、睡眠時随伴症として睡眠専門の医療機関の受診を勧めています。

摂食障害に関しては、「摂食障害情報ポータルサイト」も参照してください。

 

拒食症と過食症の関係

「拒食」の要素

拒食症では、情報や感情の処理といった生物学的システムのネットワーク、行動の組織化といった問題が、病気に関与していると考えられています。さらに、摂食障害を抱える人の脳には生物学的なアンバランスがあることが知られています。

その不安を何とかするために頼るのが体重や体型のコントロールによる「拒食」です。体重だけは、食べなければ数値が下がり努力が報われ、かりそめの安心感と達成感を与えてくれるように感じられますから、心の問題を身体面や行動面に徹底的に回避している状態といえます。

しかし「拒食」はだんだんと食べ物への恐怖へ変わっていき、「苦しい縛られ感」と現状を変化させる事への恐怖しか感じられなくなることが多いのです。
体重へのこだわりが自分を苦しめるようになるのですが、体重が少々増えることは問題がないと頭でわかっていても、とにかく怖いのです。

 

「過食」の要素

「過食」の要素は、「自分では良くわからないモヤモヤとしたネガティブな気持ちから逃れたい」ため食べ物を使った気分解消行動で、感情回避行動として知られています。
「ストレス発散」と認識している人もいれば、「過食によって自分を麻痺させる」という感覚の方が近い人もいます。しかし過食することへの罪悪感や嫌悪感も加わり、精神的にはさらに悪い状態になります。

何もすることがないときに手持ちぶさたを紛らわすために過食することもあります。むしろ、ストレス発散のためにする過食よりも、不安なときや思い通りにならないときに起きるストレスと無関係の過食(心の空虚感を埋めるための過食)の方が多く、かなりの人が過食あるいは過食嘔吐がクセになったと感じてしまいます。

 

摂食障害と関連のある病気

うつ病/持続性抑うつ障害(気分変調症)
うつ病や抑うつ状態は食欲に症状が現れます。古典的なうつ病では、基本的に食欲は低下します。これは「食べるエネルギーの低下」であって、「拒食」のときの「食べることへの恐怖」とは異なります。そしてうつ病や抑うつ状態に特有のネガティブな認知と不安によって、摂食障害のプロセス全体が加速されていくのです。

また「双極性障害(躁うつ病)」を併存していて、うつ病期には過食がひどくなり、躁状態の時は過食が減るか無くなるという非定型うつ病のタイプの人もいます。

「非定型うつ病」と呼ばれる特殊なタイプのうつ病では、食欲は逆に増加します。「過食」とは事なり、「ダラダラ食べ」や「食べ過ぎ」という形をとることが多いのですが、一見まぎらわしいものです。

 

摂食障害の治療

摂食障害の治療に関しては、「摂食障害情報ポータルサイト(専門職の方)」も参照してみてください。

過食症の治療
「対人関係療法」と「認知行動療法」の2つは、治療終了後6年後まで経過を追った研究でも効果が安定していることが示されています。

対人関係療法は、どんな対人関係パターンが過食のエネルギーをつくりだしているのだろうか、というところを見ていき、「自分自身との関係」「行動の仕方」「他者との関係」を変化させることで過食症を治療していきます。

対人関係療法は治療開始時の「変化の段階」と治療効果が相関するというデータがあるため、対人関係療法の効果を発揮するためには明確な動機づけが必要です。(「対人関係療法とは?」「摂食障害の対人関係療法」参照)

三田こころの健康クリニック新宿では日本摂食障害学会のガイドラインを参照し、思春期青年期・成人期ともに、標準体重の75%(BMI:16以上)を外来での対人関係療法に取り組める目安とし、「身体管理が終わった方」を対象にしています。
生物学的に正常な状態に戻ろうとせず、食行動のルールに縛られている限り、飢餓状態で生じる異常なプロセスからいつまでも抜け出すことができないからです。

 

モーズレイ・モデルによる「家族ベースの治療」は、思春期の拒食症だけでなく過食症にも適応となります。
三田こころの健康クリニック新宿の摂食障害/対人関係療法外来では、摂食障害(拒食症・過食症)のお子さんをお持ちの家族のためのモーズレイ・モデルにもとづく【摂食障害サポート面接(ケア・カウンセリング)】を行っています。

また治療者の指導を受けながら、心理教育、症状モニタリング、生活リズムの安定化などに自分で取り組んでいく、「ガイデッド・セルフヘルプ」にも効果が認められています。三田こころの健康クリニック新宿の摂食障害/対人関係療法外来では「ガイド付きセルフヘルプ面接」も取り入れています。

 

認知行動療法は、「体重や体型のコントロールへの過大評価」がどのような食行動異常につながっているかを見ていき、より客観的・合理的な見方と行動が出来るようになっていくことを目指す治療法です。認知行動療法は効果的な治療法で、イギリスのNICEガイドラインでも第一選択に挙げられています。

 

薬物療法、とくに抗うつ薬は、うつがひどい人やこだわりが強い人にはプラスになりますが、抗うつ薬自体には食欲を増加させる効果もありますし、摂食障害の治療では「抑うつ不安」と向き合い抱えておけるようになることに取り組む必要があるため、抗うつ薬の使用には細心の注意が必要です。

 

拒食症の治療
現時点では、思春期の拒食症の治療として『モーズレイ・モデルによる家族のための摂食障害こころのケア』のような「家族ベースの治療(FBT)」のみに効果が認められています。
つまり、家庭を治療の場とするということです。患者さんの変化への動機づけを高めるために患者さんへの対応の仕方やコミュニケーションを変え、家族が情動知能の見本となり、「家族も変化すること」が拒食症からの回復の重要なポイントになります。

なお、体重減少が著しく、-30%以上のやせで生命の危険があるようなときは入院治療が必要になります。BMI15未満は精神療法が無効であることが知られており、栄養状態を改善していく上では、不安に耐えながら栄養を摂る必要があります。そのため、体重減少があるケースでは、身体管理か可能で入院施設のある医療機関への通院をお勧めしています。退院目標はBMI: 16〜17が多いようです。

なお、薬物療法や相補代替医療は、強迫性障害などの併存症があるか、治療抵抗性であるときに限定して行われるようです。

 

治療を受けないとどうなるか

摂食障害は放っておくだけでは治ることはなく、むしろ悪循環に陥っていく病気であると同時に(うつ病や双極性障害の病相に連動して症状の消退がある場合は治ったとは言いません)、いったん症状が治まっても再発しやすい病気でもあります。

摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』の「推薦の言葉」にもあるように、「摂食障害のとても残念な側面は、精神的にいろいろと「狭くする」病気だということです」とあるように、「気分解消行動としての食行動」から「食行動が嗜癖(クセ)となり防衛構造としての自己を形成」し、次第に「生活が狭窄し人生が混乱」していきます。

 

専門的治療の必要性

残念ながら日本には摂食障害の専門家はあまりいません。ある高名な摂食障害の治療者から、「バランスよく食べなさい」「良くなる気があるのか」と厳しく指導され、きちんと聞いてもらえずに深く心が傷ついた人もいます。

あるいは「過食症の治療にエビデンスのある対人関係療法を受けたい」と治療者に思い切って伝えた患者さんに、「摂食障害は対人関係療法で治るとは思わない」と主観的感想で言い放った医師もいたそうです。
このように「治療」の場で「わがまま病」「ぜいたく病」と言われたり、「そのうち治る」「症状は今のあなたに必要」と、摂食障害という病気の本質を理解していない治療者もいるようです。

またさらに悲惨なことは、「患者さんの言うことを聞いてあげてください」と、家族に何時間も患者さんの摂食障害トーク(罵倒も含む)につき合わせたり、食べ物を計ることを手伝わせたり、食材の買い出しを指示するなど、有害な「治療(?)」を行っていながら「患者さんの味方」を自称している摂食障害治療の専門家(?)すらいるのが現状です。

 

治療で何を実現しようとしているのか、たとえば過食症の場合は、過食や過食嘔吐の消失だけでなく、その後の「生き方」を明確にして、エビデンスのある治療技法の機能を十分に発揮するために、その人に合ったオーダーメイドの治療が可能で、かつ専門性の高い治療法を選ぶ必要があります。

エビデンスのある治療でもマニュアル通りに進めるだけでは、患者さんの多様性を無視することになるだけでなく、患者さんを恣意的に治療法に従わせることになってしまいます。

 

精神療法は楽器の練習や山登りに例えられることがあります。指導者と一緒に練習するだけでなく、自分自身の練習も必要不可欠ですよね。指導者は一緒に山を登って回復までの道のりをガイドしてくれます。でも治療者が背負って山を登ってくれるわけではないので、苦しくても自分の足で登らなければなりません。

変化に向けて一歩踏み出すことに躊躇いがあったとしても、何らかの形で、誰かの力を必要とする時が来ることを信じることが必要です。『家族のための摂食障害こころのケア』には、「それができるのはあなたひとり。でも、ひとりではできない」ことを忘れないようにと書かれています。

治療を始めて回復への道を歩いていくという、変化につきものの一時的な感情に耐えられる心を培っていくことも治療の大切な一つの要素なのです。『摂食障害から回復するための8つの秘訣』を参考にして「回復への動機づけ」を自分自身に問いかけ続けててみることが大切です。

 

摂食障害は現実生活の心理的な辛さを心の中で抱えることが難しく、見ないですむように摂食障害行動をによる気分解消を図る「回避の病い」です。今までのやり方を変えられない理由(言い訳)をあれこれ考えて、それを信じ込み、他者を悪者にすることで自己正当化を図り、回復するという変化を避けようとします。

どの治療が自分に向いているのか、どの治療者が適切であるのかの一つの目安として、治療初期には治療者の指示が耳に痛く、自分の心と向き合い行動を変えていくことが苦しく感じられても、言い訳をせずに頑張って治療を続けられるかどうかが挙げられます。

「回避」という摂食障害の病理と「生き方」を考えるように指摘されたとき、自分の中の「摂食障害の部分」が反発します。そのときにこそ「健康な部分」は何を望んでいるのか、を明確にしていくプロセスが絶対に必要不可欠です。

もし治療をやめたいと考えているならば、それは自分の心を見たくないために「摂食障害の部分」が治療法や治療者の脱価値化を囁いているのか(回避)、あるいは治療者に依存しすぎるのはマズイと「健康な部分」が注意を促しているのか(自立)を、自分の中で対話してみるとよいでしょう。

「自分の人生は自分が主人公」という気持ちを失わず、摂食障害から回復して自分の人生を取り戻したいモチベーションを保ち続ける事が大切です。