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玉川上水と太宰治(2)

2017.06.23 10:50



写真は、今新宿御苑でちょうど見頃を迎えているタイサンボクの花。
モクレン科のお花だそうで、直径20cmくらいの大きなお花です。 

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さて、前回の続き。

13歳の少女にとって太宰の暗闇の深さの全容はわかるはずもありませんでしたが、『人間失格』は衝撃的でした。

主人公の葉蔵は幼い頃から自分が何を感じているのか、他人が何を感じ・考えているのかがさっぱりわからず、そんな中でも人を怒らせたりすることなく、見捨てられることがないようにするために必死でした。

そして彼が生きるための戦略として考え付いたのが「道化」でした。

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考えれば考えるほど、自分には、わからなくなり、自分ひとり全く変っているような、不安と恐怖に襲われるばかりなのです。自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。何を、どう言ったらいいのか、わからないのです。  そこで考え出したのは、道化でした。  それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。自分は、人間を極度に恐れていながら、それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。そうして自分は、この道化の一線でわずかに人間につながる事が出来たのでした。おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、内心は必死の、それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、油汗流してのサーヴィスでした。
でも、その必死の努力がある日同級生に見破られてしまうのです。

もはや、自分の正体を完全に隠蔽し得たのではあるまいか、とほっとしかけた矢先に、自分は実に意外にも背後から突き刺されました。それは、背後から突き刺す男のごたぶんにもれず、クラスで最も貧弱な肉体をして、顔も青ぶくれで、そうしてたしかに父兄のお古と思われる袖が聖徳太子の袖みたいに長すぎる上衣うわぎを着て、学課は少しも出来ず、教練や体操はいつも見学という白痴に似た生徒でした。自分もさすがに、その生徒にさえ警戒する必要は認めていなかったのでした。
 その日、体操の時間に、その生徒(姓はいま記憶していませんが、名は竹一といったかと覚えています)その竹一は、れいに依って見学、自分たちは鉄棒の練習をさせられていました。自分は、わざと出来るだけ厳粛な顔をして、鉄棒めがけて、えいっと叫んで飛び、そのまま幅飛びのように前方へ飛んでしまって、砂地にドスンと尻餅をつきました。すべて、計画的な失敗でした。果して皆の大笑いになり、自分も苦笑しながら起き上ってズボンの砂を払っていると、いつそこへ来ていたのか、竹一が自分の背中をつつき、低い声でこう囁ささやきました。
「ワザ。ワザ」
 自分は震撼しました。ワザと失敗したという事を、人もあろうに、竹一に見破られるとは全く思いも掛けない事でした。自分は、世界が一瞬にして地獄の業火に包まれて燃え上るのを眼前に見るような心地がして、わあっ! と叫んで発狂しそうな気配を必死の力で抑えました。
 それからの日々の、自分の不安と恐怖。
 表面は相変らず哀しいお道化を演じて皆を笑わせていましたが、ふっと思わず重苦しい溜息が出て、何をしたってすべて竹一に木っ葉みじんに見破られていて、そうしてあれは、そのうちにきっと誰かれとなく、それを言いふらして歩くに違いないのだ、と考えると、額にじっとり油汗がわいて来て、狂人みたいに妙な眼つきで、あたりをキョロキョロむなしく見廻したりしました。できる事なら、朝、昼、晩、四六時中、竹一の傍から離れず彼が秘密を口走らないように監視していたい気持でした。そうして、自分が、彼にまつわりついている間に、自分のお道化は、所謂「ワザ」では無くて、ほんものであったというよう思い込ませるようにあらゆる努力を払い、あわよくば、彼と無二の親友になってしまいたいものだ、もし、その事が皆、不可能なら、もはや、彼の死を祈るより他は無い、とさえ思いつめました。
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このくだりを読んだときに、自分も同じことをしていると思ったのです。
そこまで切羽詰まったものでないにしても、葉蔵と同じ闇を持ち、それがバレないように必死で努力していると。

私の場合その戦略は道化ではなくて「優等生」でしたけど。

本当の自分が人に知られたら、私は人に見捨てられると思っていました。

いえ、そう思っていることすら自分にはわからなくて、自分の中には何か汚いもの・ドロドロがあって、自分だけ決定的に人と違っていて、根本的なところで自分はダメな人間だと思っていたのです(無自覚で)。

だから、自分の心の言葉にならないドロドロが文章として世界に存在していることに驚き、そんなドロドロを持っているのが自分だけではなかったという安堵感を強く感じたものです。

なんとなくではありますが、「人間失格でもいいんだ」みたいな気持ちになれたのかも。

だから、太宰は心の恩人です。


その後、長い年月を経て、わたしは今、カウンセラーという仕事をしていますが、心の闇に光を当てることが好きなのです。

闇は別に悪いものでもなんでもなく、ただ、光が当たるのを待っています。

闇は光が当たれば消えてなくなります。

太宰は、境界性人格障害だったとか、愛着障害だったとか言われています。
幼い頃に性的虐待も受けているようです。

太宰は苦しみの中で自分を救うために作品を書いたのかもしれません。
そして苦しい心のありのままを表現した作品が数十年経っても多くの人の共感を呼んでいるということは、多かれ少なかれ皆が似たような気持ちを持っているということです。

太宰は苦しみから救われることなく死を選んでしまったことは残念です。

人間の心を深く見ていくと、必ず闇にぶち当たります。

自分のことを良い人と思っている人でも。

いえ、自分のことを良い人と思っている人の方が実は闇が深かったりします。

でもその闇を突き抜けたところに光があることを、私は知っています。

別の言葉で言うと、世界には本当は善も悪もないということを知っています。

ただ、ありのままを受け入れていけば平和になれます。

だから、いつも安心してクライアントさんと共にいられるのです。

(なんだかちょっと重い話題になってしまったかな~・・・)


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